◆ Sideルノ



「……いっちゃんも分かりやすいねえ」



いつみ先輩と南々先輩が出て行き、ぱたんと閉じる扉。

それを見てぽつりとつぶやく椛先輩に、夕さんも「そうね」と同意した。……ふたりみたいに口に出す気はないけれど、たしかに分かりやすい。



南々先輩に、不意にちらついた男の影。

元から彼とは仲が良いみたいだけど、思いっきり目の前でデートに誘われたのがいつみ先輩は気に食わなかったみたいだ。



それに、元カレの話も出たし。



「呉と元カレが仲良いって、南々先輩言ってたじゃないですか。

聞いたら誰なのかはすぐに特定できると思いますけど?」



「そうだねえ」



いつみ先輩が、南々先輩を好きなのは一目瞭然。

かなりわかりやすく行動していると思うけれど自分の感情を気づかせたいのか、それともただ感情のままに動いてるだけなのか。




「それよりあたし……

あの子のご両親の話の方が、気になるんだけど」



「あ? 研究者、つってただろ。

別になにもおかしくないんじゃねーの?研究者なんてそのへんにいくらでもいるだろーよ」



「だから、言ってるの。

……あの子が住んでる場所、忘れた?」



あ、と。一瞬乱れがちだった思考が纏まる。

八王子の名前も使えないくらいに、特別な人しか住むことのできない巨大な城。一等地に建てられた、厳重すぎる高級マンション。



「ただの研究者の娘だったら……

あんな場所に住むことなんてできないわよ」



確かにそうだ。ただの研究者の娘だったら住むことなんてできない場所。

だけど世界的に有名な研究者に「姫川」って名字を聞いた覚えはないし、両親とも有名な研究者であればすぐにわかるはず。



「……まえにね、」