ジャケットを羽織らないと登校できない季節に突入した。


10月は落ち葉の時期。

紅葉が見え隠れする木々が連なっている。


秋の匂いはどこか切ない。


ザクザクと枯葉の上を歩きながら、ローファーの下のダンゴムシさんごめんなさい、って小さく謝る。

ダンゴムシが気持ち悪いって、一度愚痴ったら、竜馬が怒って淡々と教えてくれたんだ。

ダンゴムシは分解者の役割を担当していて、土壌形成上一定の役割を頑張ってるんだって。食性と生態から自然界の分解者と認識させられてるから、大切な命なんだよって言ってたっけ。

全然注目されていないダンゴムシさんだけど、本当は裏で一生懸命支えてくれている。そのことがどうしてか切なく感じられたんだ。

『能ある鷹は爪を隠す』

竜馬はそう言って小さく笑ったっけ。

私はいつかそんなに勇気のある存在になれるだろうか。



ー私はいつまでも…偽善者のままなのだろうか。



学校に着けば、女子がなぜだか浮き立っていた。


「どうしたの?」


って夏帆に聞けば、


「そりゃ、今日は家庭科の実習だからね!」


ってニヤッと笑った。


なんで…って疑問に思うのも最初の数分だけだった。今日は、クッキーを焼くらしい。あまり聞いていなかったから把握していなかった。そしてもちろん、女子は好きな男子に渡したいのだ。


どうしてだろう。

ふと脳裏に浮かんだのは、涼しげな表情でわたしを見つめる竜馬だった。


竜馬、こういうの嫌いそう…


そう思いながらも、クッキーを作っている間はずっとあいつのことが頭から離れなかった。


男子は教室の奥で別の調理実習をやっている。今回はグループを自分で決められたから、男女見事に別れてしまった。


だけど竜馬だけ、一人で作ってた。それがどうしてか、わたしの胸を痛めたんだ。



まあまあ良い出来だった。

三個作った。

カリッと仕上がったクッキーは、わたしは普通の丸い型で作った。

女子はハートとか星とか皆それぞれ気に入った型で作ってたけど。

夏帆なんか好きな男子の名前まで書いてたっけ。好きな人がいるなんて、初耳だった。


みんな、知ってたけど。