ケータイ小説 野いちご

月夜の涙

第一章 出会い

私は足を進める。ただ、心細いのがよくわかる。

ーそうか。私、迷子なのかな。

私は周りをきょろきょろと見渡す。周りは緑の木々だらけで他にはのどかな田んぼがあるぐらいだ。

「ーーーーっ」

ーえ?

私は誰かに呼び掛けられた気がしてそっと前を見る。そこには着物姿の男の人がいた。顔は暗く見えない。青く、派手ではない彼らしい服がわかる。

ーああ、私、この人を探してたんだ。

私は走って駆け寄り彼に近づく。

「ーーーっ!!」

彼は何を言っているのかわからなかったがなんとなく怒っているのが分かった。

ーなんで怒るの?怒らなくてもいいじゃない!

そんな怒りのことばは届くことがなく、彼は足をすすめる。

ーまってよ!どこに行くの?

そんなことも彼には届かない。私は遠のく彼を追いかけた。

ー待って!行かないで!置いて行かないで!

ただ訳の分からない場所が不安なのではなかった。

彼は暗い場所に歩いて行く。

ー駄目!私の所へ戻ってきて!お願い!ーーっ!

彼への声は届かなかった。私は彼を追いかける。鬱蒼とした森の中、そして、徐々に視界は開ける。月の光が見える。私は近くに感じる月を見た瞬間、視界に靄がかかり始め、浮遊感を感じた。

ーああ、夢から覚めるんだ。

妙に意識はさっきよりもはっきりとしだす。私はそのあてどもなく彷徨う気分に身を委ねた。




「姉ちゃん。流石にそろそろ起きたほうがいいよー。」
「…ん?」
私の目の前には天井とつりさがるカーテンが見える。廊下からはバタバタした音が聞こえる。きっと、部活の朝練に行くのだろう。私は身体の体勢を変えて時計を見つめようと目を凝らす。
「七時…えっと、十…七分…?」
ーそうか。十七分…。
私は身体をゆっくりと頭を揺らさないように起こす。手探りで台からシャーペンとノートを取り出す。
「えっと。五月十一日木曜日…きょうの夢。雪の記憶…。蒼…は何言ってるか分からず。置いてかれる。ひどい…。やはり、月が近くに感じる…。綺麗…。と。」
私はペンを一通り走らせるとため息をついて身体を起こす。
「…えっと。ごはん…あれ?」
私は時計を見て焦る。
「待って!?なんで止まってんの!?」
時計は秒針も動かずに固まっていた。私は勉強机の方にある時計を確認しょうとする。こちらは動いていて長針は三十七分を指していた。

ーやばいっ!やばいやばい!

夢見心地な気分はすっかりととけて、私は鞄に物を詰め込み、ご飯を食べに一階に降りる。

「急がなきゃ!急がなきゃ!お母さん!靴下ない!?」

「そこに干してなーいー?」

お母さんののんびりした声が和室から聞こえる。きっと寛いでいるのだろう。それを恨めしく思いながら私は室内にあるハンガーの場所に行く。靴下は幸運なことにも一組揃った状態であった。

ーラッキー!靴下探しに時間をさけることにならなくて!

私は前もって準備をすることができない。ピクニックや旅行でもそうだが、いつも、何かを忘れるのだ。だからだろうか。準備はその日にするようになった。

ーただ、めんどくさいからだろうけど。

私はそれを履いて朝ごはんにありつく。と言っても弁当のおかずの余りだけど。私は時計を見ながら食べる。そして次の予定を考える。

ー今日は朝から小テスト…。なんとか合格点はとるためにもホームルーム開始五分前には教室にいなきゃ。

私は飲み込むように食べたあと、歯磨きをして髪を結ぶために部屋に戻る。目の前のコルクボードにある時間割を見ながら休憩時間での予定を決めて行く。

ー何か忘れてるような…。

私は鞄に手をかけ階段を降りながら考える。

ーえっと、今日は朝から英語の…英語?……えっと。今日の英語は…あ!英表の宿題!!

私は閃いて私室に戻り、台の上にあるノートを取り一階に戻る。時計は八時十分を指していた。

ーやば。走らなきゃ!

「お母さん!言ってきます!」
「行ってらっしゃい」

お母さんにそう言って私は勢いよく走る。坂を駆け下りて走る。外の匂いは海と鉄の匂いが入り混じっていた。
私の生まれ故郷のこの町は古くから特殊な地形により造船所として活躍した。橋から作業員が作業をしているのが丸ごと見える。なんでも船好きにはたまらないらしく、時々ツアーの人を見かける。私には見慣れててよく分からないが。私は彼らがまだいない造船所を横目で見ながら足に一層力を込め走り出した。







「セーフだ!」
私は学校の時計を見て意気揚々と言葉を発する。十分前!予定より良い結果だ!
「おはよう。光。朝から元気だね。」
私は声がする方を向く。そこには中性的な顔の青年が笑って立っていた。
「おはよう!朔!風紀委員の仕事?お疲れ様っ!」
私は笑顔で返事を返した。
「…ぷっ」
彼は突然笑い出した。
「な、何?!なんで笑ってるの!?」
私は慌てて服装を確認する。セーラーの前後ろはしっかりしてるし、リボンもある。スカートも捲れてない。どこにも異常がないように見える。
「あー。ごめんね。髪が凄いことになってて。こっちおいで?」
「…///っ!いい!自分でやれる!」
私は髪を無造作に整えて走る。っていうか何あの笑顔!!反則!
朔は私の幼なじみだ。成績も良く先生からの信頼も厚い。スポーツは身体が弱いから得意とは言えないが激しい運動ではなかったら大体のことはこなせる。その上人に優しく中性的な顔立ちの為か皆んなからすっごくモテる。姫王子とか言われてる。

ー…まあ、普通の女の子より可愛いし?私と遊んでいる時もナンパされるのあっちだし?…きっと、幼なじみじゃなかったら私とは話したりすることもなかっただろう。

私はいたって平凡だ。成績は英語と数学が壊滅的、歴史や倫理は得意。運動面では走ることが得意だがバレーボールなど球技とかになるとお手上げに近い。

ーこの前もバレーボールでボールを頭で打ち返したらチームメイトは崩れるように倒れていったな…。

あの時のチームメイトの様子は先生がビデオを撮っていた。何でもフォーメーションの確認のためだとか。しかもその奇行はカメラできっちりととられていた。あのお笑い劇団を思わせるもので、チームメイトに何度もリプレイさせられた。

私は茹で上がりそうな頰をおさえて前を向こうとする。

「…わっ!」
「…え。うぎゃ!」

私は盛大に後ろにこけてしまった。私の前方不注意のせいで誰かとぶつかってしまったようだ。

「ごめんね。大丈夫?」
「あ、うん!平気!こっちこそごめんね!考え事してて…。」
私は一瞬言葉を失いかけた。
目の前にいる青年はハーフだろうか。どこか大人のような雰囲気が醸し出ていた。瞳は綺麗な青色。…しかし、この人を私は見たことがない。
「…あの。どちら様ですか?」
私の学校、私立緑ヶ丘学園は小さく、こんな人がいたら騒ぎになっていただろう。
「あ。僕は今日から通うことになったんだ。Kだよ。よろしくね。立てる?手捕まって?」
「えっ?あ、うん。ありがとう。」
私は手に捕まり立ちあがる。にしても、Kなんて…変わった名前…。もしかして京とか日本語なのかな?
私は口を開こうとする。
ーーキーンコーンカーンコーン…
「あっ。やばっ!」
私は予鈴を聞いて走ろうとして、後ろを振り向く。
「私は三年A組の伊澤光!わからないことがあったらなんでも聞きに来てね!じゃっ!」
私はそういってその場を後にする。
「伊澤…光…」
青年は彼女の後ろ姿を見つめていた。

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