シャンパンの、金色に立ち上るきめ細やかな泡が実に幻想的で大人っぽくーー

 けれど反して、君のぷるんと、潤いのある唇の端についた泡が、それはそれは幼く見えたんだ。


「前から言っているでしょう?
早く、俺と付き合いなよ」


 艶めかしいのに、時折あどけなく見えるのは、きっと昔の彼を知っているから。


 私は困惑したそぶりを見せて、君に一言告げる。

「何度も、言っているはずだけれど……
私には婚約者がいるの」

 キラリと左手の薬指に輝く、ハリーウィンストンのダイヤモンドをわざとらしく見せて。


「勿論、知ってるさ。
でもそれは所詮、政略に過ぎないってことも」


 彼は唇に綺麗な弧を描いて魅せて、艶麗に笑うーー。


「俺は忘れていないよ、理恵(リエ)
俺たちが甘い密約を交わしたことを、ね」


 ああ、なんて、なんて口説き上手なプレイボーイに育ってしまったのだろう。

少し前まで小学生をしていた子と同一人物とは、到底思えない。


 僅かにでも触れようものなら、氷の結晶のように溶けてしまうような、愛らしい少年はどこに行ったのやら。


 ディナークルーズに招待されて、煌びやかなシャンデリアの輝く遊覧船内のラウンジで、人知れず交わしたシャンパンと、そして昔の約束話。


 ここから、人生初の修羅場というものを何度も体験していくなんて、この時の私は想像だにもしていなかった。


 ーーさぁ、愚かしくも美しい駆け引きの幕開けだ。