「おお、デートの約束とな!?」

「やったじゃないですか、兵助さん!」

 兵助さんの報告に、私たちレストラン勤務の女性組は色めきたちます。

「すごいじゃないですか!」

「あの状況からどうやって誘ったのじゃ?」

「ええと、自分でもよく覚えてなくて……混乱している間に話の流れでそうなったというか……」

「それでもすごいですよ! 初対面の方をデートに誘うだなんてなかなかできることじゃありませんって!」

 照れ笑いをする兵助さんに私は詰め寄って言葉を続けました。

「情けない方だと思っていましたが割とやるものですね! 見直しました!」

「……ちょっとひどくありません?」

 ほんの少しだけこちらを睨みつけてくる兵助さんに、私たちは笑顔で返します。

「そんなことないですよぉ」

「正当な評価じゃな」

「…………」

 寡黙な椿屋先輩すらもうんうんと頷いています。兵助さんの味方はどこにもいません。肩を落として落ち込む兵助さんに私は声をかけます。

「さあ、それじゃあデートの準備に入ろうじゃありませんか!」



 それから三日後、兵助さんは緊張した面持ちで待ち合わせ場所に立っていました。

 メタモルおしろいの効果で、兵助さんの見た目は椿屋先輩には届かないもののイケメンに仕上がっていますし、ボロのようだった服装も新しく買い揃えてきたカジュアルなものに変わっています。

 兵助さんは居心地悪そうにもじもじとしています。頑張ってください、これで恥ずかしがっていたら美奈さんとのデートではどうなってしまうんですか!

「あ、兵助さん」

「美奈さん!」

 待ち合わせ時間の5分前に美奈さんはやってきました。白と淡い水色を基調とした初夏らしい装いです。ちなみに兵助さんは30分前から待ち合わせ場所で待っていました。念には念を入れすぎです。

「じゃあ行きましょうか」

 美奈さんに促され、二人はゆっくりと歩き始めました。私たちもこっそりその後をつけていきます。ストーキング開始です。

 二人が向かったのは近所にあるイオスでした。

 デパートやショッピングモールと呼ぶにはちょっとしょぼい。三階建ての田舎民の頼れる味方、それが大型商業施設イオスです。

 二人は専門店街を少しぶらぶらしたあと、フードコートへと向かいました。私たちレストラン組もそれを隠れて追い掛けます。

「でもデートにイオスはないと思います」

 変装用のサングラスをかちゃりと持ち上げながら二人の様子を窺います。どうやら和やかに会話は進んでいるようです。

「なんでじゃ。いいじゃろう、イオス。何でもあるぞ?」

「えー、ないですって。椿屋先輩もそう思うでしょ?」

 話を振られた椿屋先輩は、いつの間にか一人だけジュースを買ってきたようで、ストローをくわえていました。

「イオスはない」

「ほら、二対一ですよ!」

 アリだナシだと、やんや言いあっているうちに兵助さんと美奈さんは立ち上がってどこかに歩いていってしまいました。椿屋先輩がそれを追いかけていくのに気付いて、私たちも慌ててそれについていきます。

 二人が入っていったのはこじゃれたブティックでした。遠目に見ても、兵助さんが服の値札をちらちら見ているのが分かります。

 大丈夫ですよ、兵助さん。美奈さんは、さすがに会ってすぐの相手に服をねだるような方には見えませんでしたし!

 どうやら二人は帽子を選ぶためにお店に入っていったようで、帽子の棚の前であれでもないこれでもないと会話をしているようでした。

「ここじゃあ会話が聞こえませんね……」

「しかしこれ以上近づくわけにもいかんじゃろう。我慢せい!」

 私たちはブティックがぎりぎり見える位置の柱の陰で、それを見守っていました。なんだか私たちに向けられる視線が多い気がしますが、きっと気のせいでしょう。

 そうしているうちに、帽子の内の一つを兵助さんが指さしました。美奈さんはそれをかぶってみて――鏡で確認しようとしたのですが、他の方が鏡を使っているようです。

 仕方なく美奈さんはカバンから手鏡を取り出して、帽子が似合っているかを確認し始めました。兵助さんのことも手招きして、一緒に手鏡を覗きこんでいます。実に微笑ましい光景でした。

「おい、よだか。そろそろ戻らぬと間に合わぬぞ」

「えっ! もうそんな時間ですか!」

 壁の時計を見ると、もうすぐ正午になりそうです。私は桜子先輩に急かされて、後ろ髪が引かれる思いをしながらもレストランへと駆け戻っていきました。

 そう、二人はこのあと化物堂へとランチを食べにくるのです。