『 恋 』って女の子なら一度は憧れるものだと思う。

 ドラマやマンガのヒロインは、いつだってキラキラしてた。

 でもそれは『 憧れ 』で、自分には『 関係ない世界 』。

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 あれは小5の春だった。

 一学期の始業式の朝の校庭。

 なこ(夢咲なこ)たち新5年生は旧クラスごとに整列して先生を待っていた。

 『待っていた』と言っても、先生のいない校庭はほとんど無法地帯と化していた。

「暇だなぁ~。」

 呟いたのとほぼ同時に、なこの背中に衝撃が走る。

「なーこ!!おはよっ!」

「ゆかり…。おはよう。」

 なこは顔をしかめながら振り返る。

 ゆかりこと(花村紫)はなこの幼馴染みで、小1~小4までずっと同じクラスだった。

「なこ、顔怖いよ?」

「誰のせいだ?」

 二人はしかめっ面でしばらくにらみ合い、同時に吹き出した。

「あ、そーいえば昨日のドラマ見た!?」

 しばらく笑ってから、なこが口を開く。
 
「見た見た!!すんごいドキドキした!!」

 ゆかりが顔を輝かせながらこたえる。

 二人が話しているのは、最近話題の恋愛ドラマのことだ。

「私あのとき、あなたの事が、王子さまみたいに見えたの。」

 ゆかりが身ぶり手振り、昨日のドラマの再現をする。

 今の台詞はヒロインが好きな相手に告白するシーンだ。

 そして、次の台詞はたしか…
 
「僕はそんなたいした人間じゃないよ。…だっけ?」

「「!?」」

 背後から急に台詞がとんでくる。

 これで驚かない人はいない、二人は本気でそう思った。

「もー、ビックリしたじゃんか!!」

「そーだよ、悠(ゆう)!」

「え、あー、そー?」

 悠(速水悠)は意地悪く笑う。

 悠も二人の幼馴染みの一人である。

「てか悠、なんで恋愛ドラマの台詞しってんだし」

 ゆかりは悠にからかうような目を向ける。

「ね、ねーちゃんが見てたのがたまたま耳に入ってきたんだよ!!」

 悠は顔を真っ赤にして、慌てて弁解する。

「シースコーン!!!」

 そんな悠が面白かったようで、ゆかりはなおも続ける。

「はぁ!?そんなんじゃねーし!!」

「いーや、あるね!!!」

 (はぁ。)

 この手の会話を幼い頃から聞いてきたなこは、今更止めようとはしない。

 (こーゆー時はほっとくのが一番なんだよね。)



 (!?)

 何気なく校庭を見回していたなこの目線が、ブランコの前に立つ一人の男の子に止まる。

 (誰だろ、あの子。何年生かな…?)

 はじめは見覚えのない顔に驚いたものの、


 見覚えのない顔→他学年or転入生。

 でも今ブランコ付近に集まってるのは5年だけ。

 つまりあの子は転入生。


 といった様に、すぐにいつもの冷静さを取り戻し結論にいたった。

 なこがそんなことを考えている間に、男の子は姿を消していた。