河原町御池の洋学所へ戻ると、井戸に蓋とおぼしき厚手のムク板を渡し、その上に八重が座って涼んでいる。

「…八重どの、あぶのうござる」

岸島は肝を潰した。

「このぐらいやって涼まねば、京の夏は暑うてかないませぬ」

八重は平然と何やら書物を読んでいる。

視線すら岸島に向けない。

まず井戸に板を渡して座るというのも豪胆だが、書物を読む女というのも、この時代にはまず珍しかった。

何から何まで驚きである。