詩乃 side



それから数日経っても、律は目を覚まさなかった


周りは段々、希望を失っていった


でも私は諦めなかった


律を信じていた



「ねぇ、聞いて律。お母さんがね、この前コンサートをしたんだけどその時に、変な音がなったの。なんでだと思う?お母さんったら、始まる前に、調律してなかったんだよ?ほんと、お母さんって抜けてるよね」



どれだけ話しても、律が答えてくれることはないと分かっていながら、ずっとずっと話しかけた



「今日は、チャイコフスキーの白鳥の湖を弾くね。これ、結構難しかったの。指がいっぱい回ってね…………」



すぐに起きない


もしかしたら起きないかもしれない


そんなことを頭のどこかでは分かってた


それでも私は律に話続けた


話してなきゃ心が潰れそうだった



「あっ、もうこんな時間。帰るね。また明日来るよ。じゃあね」



そう残して私は病室を後にした