暴挙に出た、と言っても過言ではない、セドリックの激情溢れる行動――。
『アデルが危険だ!』と焦った兄・ライアンの手により、アデルは助け出された。


セドリックの方は無我夢中といった様子だった。
ライアンに無理矢理引き剥がされて初めて、名乗ることも忘れて、仮面で顔を覆ったまま彼女を抱き締めていたことに気付いたようだ。
ハッと我に返った途端、真っ赤な顔で口元を隠し、セドリックは消え入りそうな声でアデルに『失礼いたしました』と謝った。
それを見て、ライアンはようやくホッとしたように胸を撫で下ろした。


ライアンに連れられ、アデルとセドリックは、屋敷の裏の庭園に移動した。


今夜の逢瀬の目的は、アデルが彼の求婚に意志表示をすることだ。
その為にゆっくり二人で話せというつもりだったのだろう。
その一角にある温室の中に、アデルとセドリックは二人で進む。
温室では、バラの花が栽培されていた。


しかしアデルは『仮面の姫君』の姿でセドリックと二人きりにされ、自分でも信じられないほど緊張していた。
セドリックも、少し落ち着きを取り戻し、恥ずかしさが募ったのだろう。
赤に白にピンク……色とりどりの芳しいバラの花に囲まれながら、アデルから目を逸らしている。


無言のまま、時間ばかりが過ぎていく。
しかしそれでは、コルセットに身を固めた窮屈なドレスを着て、セドリックの前に姿を現した意味がない。