(お母様には悪いと思ってるわよ。でも、こんなの卑怯じゃない。ああ~もうっ! どうしよう。どうしたら逃げられるだろう……)


今、アデルは城に向かってひた走る豪華な馬車に揺られている。
隣に座る父の横顔をチラチラ気にしながら、アデルは逃げ出す方法を探して、必死に頭を働かせていた。


とは言え、父は既に騎士団の正装だ。
城に着いても居室には戻らず、パーティーが行われる大広間まで、このままアデルを連行するつもりだろう。


(……無理よね。逃げるなんて)


馬車から飛び出したところで、怪我をして痛い思いをするだけだ。
その上このドレスでは、逃げおおせるはずもない。
こうなった以上、今夜は大人しくこの格好でパーティーに出席するしかない。
アデルもそこは腹を括った。


そもそも、パーティーに招待されているお妃候補の誰と比べても、家柄の点ではアデルも引けを取らない。
だから、アデルが侯爵令嬢として出席しても、誰も咎めはしないだろう。


しかし……。


(セディに見つからないようにするには、どうしたらいい? セディには私に気付いてほしくない!!)


娘にドレスを着せてパーティーに送り込もうとする両親の本来の狙いを考えると、アデルの悲痛な心の叫びは本末転倒だが、彼女には彼女の事情がある。