午後の任務に就き、城下町の視察から戻ったライアンは、騎士見習いの一人に自分の馬を預けると、その足で真っすぐセドリックを訪ねた。


後ほんの一ヵ月足らずで行われる自身のお妃選びのパーティーの為か、彼は王宮楽団の楽団長と、広間を歩きながら会話をしていた。
大股で広間に進んでみると、二人の会話が断片的に聞こえてくる。


その内容は、当日演奏するダンス曲の打ち合わせのようだ。
楽団長が挙げる曲名は、昔から知られる有名すぎる定番の舞曲やワルツが主だ。


それでも、ライアンには聞き馴染みのない作曲家の名前も出てくる。
最近の流行だろうか。
どちらにしても、ライアンにはどんな曲かもわからない。


楽団長の説明に耳を傾けるセドリックの表情は穏やかだ。
あまりに悠然としているから、一瞬、ライアンは怒りが強まるのを感じたほどだった。
しかし自分が感情的になってはいけない、と言い聞かせる。


ライアンは意識して足音を響かせながら、二人に近付いていく。
距離が縮まるごとに、セドリックの肩を掴んで、強引にこちらを振り向かせたい衝動に駆られる。
そんな暴力的な衝動を、必死に堪えるのが精いっぱいなほど、彼は憤っていた。


しかし、彼が呼びかける前に、楽団長とセドリックは足を止めて振り返った。