□夏翠side■





「あんの、くそジジイ!」



そう言った幼なじみを見ながら、新しい制服に身を包んだ夏翠は、桜の木の下を歩いてく。


「仕方ないでしょ。行けって言われたんだから…」


一ヶ月ほど前。


目の前を歩く不機嫌な幼馴染みの祖父であり、夏翠を実の孫のように可愛がってくれる、焔棠家を成長させた伝説を残す男―…“戮帝”に言われ、本来なら、通う予定だった学校から急遽、薫本人に内緒で、志望校を変え、隣の県の学校に転入してきた。


「雪さんは、無意味なことをする人じゃないし…大丈夫だよ!」


そう。


彼は、無駄なことはしない。


無駄をする時間が、もったいないと考える人だから。


「……その自信がどこからくるんだ?いい加減にしてくれ。折角、桜から離れなくて済むようにしていたのに……」


薫の瞳が、悲しみに揺れる。


(薫も、分かっている……)


雪さんのこの行動の意味を、彼もわかっている。


同じ性格をしているから。


けど、分かっていても、許せないのだろう。


黙って動かした、祖父のことが。