□沙耶side■



沙耶の通う高校は、沙耶の家からそこまで遠くない大兄ちゃんや春ちゃんが卒業生の華西高校。

「いい?沙耶、責めちゃダメだよ?」

私のことを心配するお兄ちゃんたちと同じで、心春もあの日を知っているからか、私を心配する。

私の幼い頃の『一人で大丈夫だよ』という声は、大兄ちゃんと勇兄ちゃん、春ちゃんにかき消され、無いものとされてきた。

私はあの日から、無意識に自分を殺していたらしく、お母さんやお兄ちゃんたちや、春ちゃんはこうして、私にたいして異常に過保護になってしまった。

お母さんも自分を殺して生きてきた人だったからだろう。

娘の私に同じ道を歩んでほしくないと願っている。

「分かってるって。お兄ちゃんたちもだけど、春ちゃんも心配性だな~」

笑うのは、得意だ。

笑っていれば、皆、安心してくれるから。

泣くのは嫌い。

泣いたら、全てがダメになる気がするから。


「送ってくれて、ありがと」


本当の気持ちは隠して、今日も私は笑う。

私を心配して、この季節になると、送り迎えをしてくれる家族。

「迎えはどうする?」

アイラと朝陽が死んでしまった、季節。

春ちゃんの言葉に、私は首を横に振った。

「いいや。柚香と帰ってくるから」

「そ?じゃあ、家で待ってるね」

「えー?春ちゃん、家に帰らなくて大丈夫なの?」

「どっちにしろ、大樹がくるんだもん。一緒でしょ?それに今日、ユイラさんたち、仕事でいないみたいだしさ。一緒に夜ご飯でも作ろ?」

仕事で帰ってこないなんて、聞いていないのだが。

「うん!」

まぁ、そういう両親だということは理解しているし…今更、驚かないけど。

優しく笑った春ちゃんに笑顔で頷いて、私は高校の正門を潜った。