無戸籍者。
戸籍を有しない人物のこと。
私のことである。
つまり私は実質、この世に“存在していないこと”になっている。

母は私が生まれた際に出生届を役所に出さなかった。
多大な借金があり、裕福とは言い難い生活を送っていた母。
債権者に居場所を突き止められたくない、それを理由に出生届、更に自分自身の住民票の変更も行なっていなかった。
父親はわからない。
が、母からよく聞かされていたのは「最低な父親」という言葉。
きっとろくでもない父親だったのだろう。
知りもせずにそう思ってしまうのは、
自分の母親がそうであるからだろう。
身勝手で、自分が一番可愛い、ろくでもない母親。
私の人生を壊した張本人。

社会との関わりは絶たれ、私は学校というものに通ったことがない。
今年16歳になるが、難しい文字の読み方や、計算などの知識は皆無。
簡単な文字は母がよく見ているTVで少しだけ覚えた。


「××」


暗い部屋で、母が私の名前を呼ぶ。
存在していないことになっているのだから、この名前は意味を持たない。