次の日、授業を終えると、あたしは一人昨日のカフェ前で立ち尽くしていた。


うろ覚え状態で辿り着けるか不安だったが、何とか来ることが出来てよかった。

小野瀬さんに聞いてもよかったのだけど、彼女の優しさ故に心配して着いてきそうだったためやめておいたのだ。


さび付いた鉄の扉に触れると、冷たい感覚に思わず手を離してしまう。


(こんな時…お兄ちゃんがいたら。臆病って言いながら、あたしの前に現れてくれたのに)


「…オイ、冷やかしは帰れと言ったはずだ」

「ひっ!」


背後から聞こえた声に肩を震わせると、長いため息が聞こえた。
まるで機械のようにあたしは振り返る。そこにいたのはやっぱり薄汚れた男性だ。


よくよく見れば髪はぼさぼさで腰まである。
目の下もクマが酷く、唇も乾燥していた。
あたしよりもずっと高い身長に怯えながら
「あ、あの」と震えた声を出す。


「きっ…昨日はすみませんでした! ほ、本当は冷やかしじゃないんですっ…!
その、杜禰リマさんに会いたいというのは事実ですが、そうじゃなくて、貴方を冷やかすとかそういうのでは…!」


「…中、入れ。どーでもいいが、昨日雨が降らなかったんだ。いつ降るか分からない」

「えっ…? それって…」

「入らねーなら帰れ」

「は、入ります…!」