【冬菜side】

4月。
日の光が丸みを帯びて柔らかくなり、風は穏やかに、芽吹いた幾千の花々が甘い香りで大気を満たす春の季節がやってきた。

パリッとした真新しい制服に袖を通し、長い黒髪を後ろに束ねた。

きっちり第一ボタンまでしめた、シワ一つ無いワイシャツ。

スカートの丈も捲ることなく、そのままにした私の格好は、高校デビューなんて言葉とは無縁の地味さだった。

今日から私は、高校生になる。


「これで、よし……」


スクールバックの中に筆記用具と愛読書、スマホと眼鏡を入れてリビングへと向かう。

今日は始業式と自己紹介を兼ねたホームルームがあるだけで、昼前には学校が終わる。

持ち物は必然的に軽くなり、私の新学期への期待のなさに比例した重さだと私は皮肉にも思った。


「おはよう、冬菜」


リビングに入って右手すぐにあるキッチンから、愛犬ベリーのごはんの皿を手にお母さんが笑顔を向けてくる。