「……だから何で仮、なのよ？」


慧とランチをした日の翌日。

亜衣に慧とのことについて報告の電話をすると。

詳しく聞きたいからお茶をしよう、と誘われて。



私の最寄り駅にあるコーヒーショップで待ち合わせた。

日曜日のお昼過ぎのせいか、店内にはゆったりとした雰囲気が漂っていた。

来客数もまばらで、すんなりと席に着くことができた。



私が先に到着して窓際のソファ席に腰をおろしてすぐ、亜衣がやってきて。

一通り話し終えた私に亜衣の容赦ない質問が始まった。



奏くんも後から合流する、と最初に亜衣に言われて。

奏に諌められる前に聞くことは聞くわよ、と睨み付けるように脅された。



五分袖に花の刺繍が入った紺色のシャツ、明るいラズベリー色のロングスカートを身に付けた亜衣。

その華やかな装いには似合わない、不機嫌な表情を遠慮なく私に向ける。



「……意味、わかんないんだけど？」

困惑顔の私を亜衣は目を細めて見つめる。



「……慧が可哀想だったから、とかじゃないよね？」

「まさか！
違うよ！」

即答する私。

「じゃあ、何で仮、とかよくわからないことになるの？
結奈、慧が好きなんだよね？」

訳がわからない、という風に亜衣が髪を掻き上げる。

「……うん」

デニムシャツの袖を捲りながら、返答する私に。

「……やっぱりまだ高校生の時のこと、気にしているの？」

心配そうに尋ねる亜衣。

「……あの頃と比較しても仕方ないってわかるんだけど……あの時、慧の相手は私じゃダメなんだ、私とでは幸せに、なれないんだって思ってしまったの。
あの頃とは違うって、頭ではわかっているんだけど。
同じようにならないかって……恐くて」