翌日の午前十時。

マンションの前で車に寄りかかって立っている慧を見つけた。

薄手のカーディガンに

歩きやすいスニーカー。

何でもない恰好も慧が着ると本当に魅力的で。

エントランスの中から思わず見惚れてしまった。



ぼうっと突っ立っている私に気づいた慧が苦笑して、私の手を引いてマンションの外へ連れ出した。

その手の感触に。

纏う香りに。

昨日のキスを思い出して、慧と視線を合わせられない。



「……ちゃんと眠れた?」

私の顔を覗きこむように慧が尋ねる。

心配そうな口調とは裏腹に、瞳にはからかうような光が宿る。



「……ね、眠れた!」

嘘だ。

本当は全然寝付けなかった。

暗い部屋で目を閉じたら。

慧の力強い腕と。

伏せた長い睫毛。

温かな唇の感触が。

否応なく蘇って。

柘植くんとのことに動揺していた筈なのに。

それよりも。

慧のことしか考えられなくなって、ドキドキし過ぎて胸が痛かった。



余裕綽々な態度の慧が腹立たしくて、突き放すような言い方をしてしまった私を見つめながら楽しそうに慧はクスクス笑う。

「朝から可愛いな、結奈は」

朝から赤面させる台詞をさらっと言って慧は車の助手席のドアを開けてくれた。

「慧……車……」

「ん?
嫌だった?」

慧の車は大きめの四WD。

紺色の車体が光を反射してピカピカ光っていた。

「あ、ううん。
嫌とかじゃなくて……」

「安全運転するから、大丈夫だよ?」

慧が私の頭にポン、と優しく手を置く。