「なあ」


少年が立ち上がり、口を開く。


「おまえ、桂木茜か?」


違う、と言ってしまいたい衝動にかられた。だけど、嘘がばれたときも怖い。


「そ、そう……ですけど」


どうして私の名前を知っているんだ。


疑問を口にする勇気はなく、訊かれたことだけ答えた。


少年はため息をつくと、煙を吐き出した。


こちらに足を向け、タバコを携帯灰皿に押し付ける。


それを見て、思わず「灰皿」と言葉が漏れる。

すぐにハッとして、両手で口を押さえたけれど遅かった。


少年は「アあっ」と濁点の付いてそうな声ですごむ。