そういえばスマホがマナーモードになったままだった。


正美に聞いて連絡をくれていたようで、覚えのない着信が10件近く入っていた。ナオキ君だ。


連絡もつかないし動揺したのか、探すためにあちこち走り回って彼の胸も冷え切っていた。


「…佐那ちゃん、冷たい……」


「…ナオキ君も」


「…香河直喜、覚えてもらっていいですか?」


「こうか…?香河って、あの」


ファッションからインテリア雑貨まで、世界的に有名な、あらゆるジャンルで活躍するデザイナー企業の名前だ。


KaruMAではなぜか扱いがなかった。


「親父の会社はでかいけど、俺は独立したオマケみたいなもんだよ」


それにしても業界ではそれなりに名は知れている。


「…香河、佐那に、なってもらえませんか?」


「…この状況でプロポーズ?」


寒さからか緊張からか声が微かに震える。


思わず、ぷっ、と吹き出してしまった。


くすくすと笑いながら、立ち上がって向かい合い、改めて抱き締めた。


「私なんかでいいの?本当に」


「言ったじゃん。俺のだって。あの彼氏に」


「振られちゃったけどね」


「だったら安心して俺がそばにいてあげられる」


改めて見上げて顔を見た。
涙で鼻と目が赤い。