ねえ、いつまでこんな毎日が続くの。
あと何回辛い想いをすれば、これは終わるの?

こんなこといったい何度思ったことだろう
いっそいなくなりたい、消えたい。
こんなことを切に思うのに、行動に移せない私が自分でも嫌いで、
未成年だから…学校があるから…
言い訳を並べているけれど、こんな私は
きっと大人になってもこの現実から抜け出せないのかな。


私は、家族が仲良く笑って夕飯を一緒に食べて、休日は出かけて、なんて記憶がひとつもない。
だったら、いっそ離婚すればいいのに、
けど、なぜかあのふたりは別居状態で、妥協してでも離婚しようとしない。

母はお金がほしい。父は自分のことしか知らない。このふたりの間で生まれてしまった私は、残酷な運命を受け入れるしかなかった。


「美希、おはよう!」
「おはよう」
学校には友達がいるけれど、自分の家庭環境を打ち明けられるような友達はひとりもいない。みんなそういうもんなんだろうか。
やっぱり、私だけがこんなんなんだろか。
それでも、家のことを一瞬でも忘れられるのはここしかなくて、みんなと同じように友達と話すことで現実逃避してる。

「ねえねえ!聞いてよ!!今日さ〜、朝から川上先輩とすれ違っちゃった!今日前髪セットうまく行かなかったのにー、もう最悪ーー、泣きたい」
私と仲良くしてくれる友達、由衣がクラスに入ってきて第一声を発した。クラス全員に聞こえるように。
これを聞いた女子たちがさっそく集まってきた。
「まじで!?それは、もう辛すぎだね!!えー、でもいいなー、私なんでここ1週間全然見れてないんだけど!」
「え、じゃあさ!今度のサッカーの試合近くの運動公園でやるみたいだから見に行こうよ!」
「まじて!いくいく!!ぜっったいいく!」
あっという間に女子のキャーキャーで教室は騒がしくなった。

川上先輩、、サッカー部の3年生。高い身長と日焼けした顔、なぜかその人を知らない女子はいなくて。この私でさえ、週に1回はその人の名前を聞いている。
でも、他の子のように、かっこいいとか、付き合いたいとか、おはようございます!って元気に挨拶までしちゃったり…休みを返上して試合を見に行くとかはないけど。

校内1番人気のその人は、女子の付き合いたい人ナンバーワンでもあって。多分数え切れない人たちが、その人にアピールと告白を繰り返しているんだろう。

誰が好きとか、誰かと付き合いたいとか、そういう高校生らしい感情を持てない私は、こういう時に疎外感を感じてしまう。
あぁ、やっぱり自分は他のことは違うんだって再認識する。

男女は醜くて結婚は私にとって凶器で、、、
そこまで考えて、胸がきゅーっと痛くなって来たから考えるのをやめた。

その時、結衣がこちらの方を向いた。
「ねえ、美希も行くよね!?てか、行こうよ!」
「へっ!?」油断してた。
誘われると思ってなかったわー、どうしよ
「えっと…わたしはー、」
「今週の土曜日だって!練習試合だから、きっとすぐ終わるって!終わったら、この前話してたかき氷食べに行こうよ!ねっ!?」


嬉しかった。自分とは違うって分かってても誘ってくれて、高校生らしいことをしようと私を引っ張り出してくれる結衣が単純に嬉しかった。
「そうだね、行きたいねって話てたもんね、いこ!いこ!」
「やったぁ!!じゃあ、きまりねっ!」
土曜日か。
その先輩にもサッカーにも興味はないけど、嫌なことしかない家にいなくても済む。
喧嘩や、暴言、暴力の溢れ返る家に。


「はいっ、じゃあ、ホームルーム以上、解散」
6時間の授業がおわって、最後のホームルームの時間も終わった。

部活に入っていない私はまっすぐ家に帰る。
入ってみたい部活もあったけれど、部費などを親にその都度お願いするのもおっくうで、入るのをやめてしまった。

はぁ。なるべくゆっくり帰ろう。
私は重い足を動かした。


うっっっっ!痛っっっ! え?
「あ!ごめん!ごめん!大丈夫?ごめんね!あんま前みてなくて!」
 いや、見ろよ。うわー痛いわ。
「だ、大丈夫です。はい。」
心の声を押し殺して答える。
上履きの色からして3年生か、もう、めんどくさいから早く帰ろう。
「ほんとごめんね!おれ、よく前見ないでぼーっとしながらあるいちゃってさあ、てか、大丈夫?痛くない?」
いや、前みて歩けよ、てかぼーっとすんなよ。
ぶつかってきた先輩が心配そうに尋ねる。
めんどいな、てかちょっとやばいなこの人。
「はい、だいじょうぶで…」


「康太?なにやってんの?」

あっ、ちょうどいい。この隙に帰っちゃおう。
「いやちょっと、ぶつかっちゃってさあー」
「お前、またかよ(笑)
 あ、てか、行っちゃったけど…」
「あ!ほんとだ!大丈夫かな、俺も結構痛いんだけど…」


ふぅ、にしても痛いわー、ぼーっとしながらあんなに速く歩くか、普通。

そういえばあとから来た人、噂の川上っていう人だったな。
やっぱそれなりに顔整ってた。ああいう人って、みんなに愛されて、きっと家庭環境も恵まれてて。いいな。自分とは、違う世界。

目が合ったとき、一瞬だけ、微笑まれた気がした。

そんな妄想みたいな一瞬を振り返っていたとき


プルループルルーッ
もっていた携帯が鳴る。
「美希?はやくきて!!とにかく、はやく!あの人また私に喧嘩売ってくるのよ!!!!ねえ!聞いてる!!!!早くきてっば!!!」
「はい、わかった。いまいく。」
プツッ

私は、さっきよりも重くなった足を前に運び出した。


後ろの窓から誰かがこっちを見ている気配がした。