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電車の中ではかろうじて会話らしい会話をちょっとする。

高校生になってから、宮野家は引っ越しをしているらしい。

高校が近くなってラッキーだとか、担任がバスケ部員の間じゃ鬼と呼ばれていることか。

週に一度、栗色の髪を進路指導の先生に叱られることとか。

ほとんど宮野が一方的に話していたから、私は頷いていただけなんだけど。

「そういえば、永井がかばってくれたことがあったよな」

それは初耳だ。

「覚えてない? 1年の2学期だったかな。地毛がその色なら、黒く染めろって言った進路指導に『髪を染めたら校則違反になるし、本末転倒じゃん』って」

覚えてない〜!

そんなの記憶の片隅にもないから。

目を真ん丸にした私を見て、どうしてか宮野はガックリと肩を落とした。

「覚えてろよ。あれ、俺は嬉しかったのに」

「……嬉しかったの?」

「うん。中学でも色々言われて、そんときは黒く染めてたんだ。変な先輩に絡まれるし」

変な先輩ね。まぁ、中学でその明るい栗色は、やたらに目立つかもしれない。

「でも染め続けてたら髪は痛むし、金はかかるし、ハゲるしで、高校入って、染めるのやめたんだ」

え。いや、ハゲるとか、高校2年生の男子が、なんだかかわいそうな……。

「ちょっとまて。そのかわいそうなモノを見るような目はやめろ。言っておくけど、今はハゲてねーからな?」

不貞腐れたような言葉に、思わず吹き出した。