「じゃあ、私はこれで」

部長さんが伝票を持ったので慌てて立ち上がる。

「あ、自分の分くらいは自分で━━━━━」

「これくらい大した額じゃないですよ。こんな場に来ていただいて不愉快な思いをさせました。お詫びには安すぎるくらいです。お幸せに」

二人揃って「ごちそうさまでした」と頭を下げて見送ると、スマートにお会計を済ませた部長さんはニコッと笑顔を残して帰って行く。

「はー、格好いい」

「うん」

彼には言いたいことも不満もたっぷりあるのに、どことなく不機嫌そうに物思いに耽っているから言いづらくて、とりあえず黙々と残ったロイヤルミルクティーを飲んだ。
巻き込まれた事で燻る不満が完全に消えることはなかったけど、飲み終える頃には「まあ、お茶をごちそうしてくれた部長さんに免じて許してやるか」という程度には落ち着いていた。

「・・・私に何か言うことはありませんか?」

彼はそのことに今気付いたようで、改めて姿勢を正す。

「協力してくれてどうもありがとう。突然巻き込んでごめんなさい」

小さくなってきっちり頭も下げる姿が愛しく感じられて、わずかに残った不満もすっきり霧散した。
残ったのは、胡散臭い営業マンでもなく、厳しい仕事人間でもなく、どことなく可愛げのある数分だけの私の元彼。