「…!雨だわ!晴れているのに、変ね」

それは昔の話。

ある娘が町へ買い物に行った時だった。

母から頼まれたものを買い、帰ろうとしたその時、ポツリ…ポツリ…と雨が降りだした。

「濡れないように早く帰らなきゃ」

彼女は小走りで家までの道を進んでいった。



この町はすごく小さな町。

住んでいる人も少ないし、この町を訪れる人も少ない。

元々は大きなお城が建っていた。

城主もしっかりした若者で、城下町であったこの町も栄えていた。

そんな町が衰え始めたのは、この国が戦争に勝ってからだ。

この時代は鉄砲なんてものはない。

武士対武士の戦いだ。

若者の城主に従うものが多く、大きな国相手から勝利を勝ち取った。

若者の城主はもらった土地を自分の国とし、戦争に参加したものには褒美をあたえ、大きな国を作り上げた。

だが、商売をするために城下町から新しい土地へ流れる者が多くなった。

さらに、難病が流行った。

この時代の技術では治せなかったため、大量に人が亡くなった。

この難病にかかったのは市民だけではない。

城主である若者もかかってしまい、

「この国を滅ぼしてはならぬ」

と言葉を残し、とうとう亡くなった。

間もなく他の国が攻めてきて、国は統一された。

こうして過疎化した町には、今はもう争いに負けた城の残骸がのこるだけであった。

それから長い年月が経ち、この町に住む子供は彼女しかいない。

自分だけでも生きなければならない、と思い生きていく彼女であった。



話は戻り…

彼女は森の側を小走りしていた。

森の側の道を歩いていくと、すぐに彼女の家に着く。

この道は薄暗く、恐ろしい獣が出るという噂がある。

彼女は少しためらったが、雨が降っているので仕方なく通ることにした。

しかし雨といっても、空はとても晴れている。

「不思議だわ」

少し気になりながらも急いでいると、何かの視線に気づいた。

彼女が振り向くと、そこに2つの光る目がある。

それは近づいてきて、徐々に形が見えてきた。

「狐・・・?」

そこにいたのは金色の狐だった。

ニヤリと笑った顔で、彼女を見たままその場から動こうとしない。

「どうしたの?ぬれちゃうわよ」

彼女が話しかけても、じっと細い4本足で立っている。

「もしかして、帰る場所が無いの?ほら、おいで」

彼女が近づこうとすると、狐は少し森の中へ歩いてまた彼女を見つめる。

「どうしたの?もしかして、付いてきてほしいの?」

彼女は恐る恐る狐についていった・・・。



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「少女が狐を追って森の中に入っていっただと?」

「うん、本当なんだ!まだ9~10才くらいの女の子が狐と一緒に森へ入っていったんだ!」

「まぁ落ち着けって。狐といっても、少女が飼っている狐じゃないか?きっと勘違いだな。」

その場にドッ、と笑いが起きた。

誰も信じてくれようとしない。

見たことをそのまま言ったのに、酷い仲間だ。



今日もこの過疎化した町に客を呼ぶ声が響く。

声を張り上げているのは、蒙谷(くらや)という店の息子である。

その店は、新しい土地へ流れ出なかった店だ。

先祖代々受け継がれてきたその店は、彼の父の代でちょうど5代目だ。

売り物は自分の畑で採れる野菜。

収穫の時期になると、店主である父と一緒に野菜を採り、それを手押し車にのせて店へと運ぶ。

その日も採れた野菜を運んでいる途中だった。

「今回は豊作だな。まだ運べていないやつはお前に頼むよ。」

「はい!」

町へ来ると荷物を手押し車から下ろした。

彼は空を見上げて

(今日は不思議なくらい晴れている。何かいい事あるかな。)

と思い、家までの道を手押し車を引いて歩き出した。

野菜を詰め込み、また森の側の道を進む。

(そういえばこの森、いろんな怖いことが起こるって噂になってたな。)

そう思いながらこの薄暗い道を歩いていると、突然雨が降ってきた。

それも普通の雨とは違って、空は晴れている。

(せっかく晴れているのになぁ。)

ガッカリしながらも彼は歩いていく。

しばらくすると、少し先に少女を見つけた。

しかしどこかで見たことがあるような子だ。

少女は1点を見つめて動かない。

何かに話しかけているように見えた。

彼が近づくと、少女が見つめているものが狐だとわかった。

するといきなり少女は森の中へ姿を消す狐を追って、森の中に入っていってしまった。

この森は危ない、という噂が頭をよぎり、慌てて連れ戻そうとしたものの、少女の姿は見えなくなっていた。

(誰かに知らせなくちゃ!)

彼は咄嗟にそう思い、急いで父のいる町へ向かった。



「父さん!」

その声で、父だけじゃなく3、4人が振り向いた。

その人たちも新しい土地へ出ることなく残った店の店主だ。

何か話し合いでもしていたのだろう。

「そんなに慌てて、どうした?」

「誰か知らない女の子が、狐を追って森の中に入っていったんだ!」

ここで話が戻るわけである。

「少女が狐を追って森の中へ入っていっただと?」

「うん、本当なんだ!まだ9~10才くらいの女の子が狐と一緒にの中に入っていったんだ!」

「まぁ落ち着けって。狐といっても、少女が飼っている狐じゃないか?きっと勘違いだな。」

その場にドッと笑いが起きた。

「本当なんだって!」

「さて、そんな事言ってないで野菜を並べるのを手伝ってくれ。」

完全に無視された。

「今日の話し合いはお開きだ。お互い頑張ろうな。」

来ていた人たちは「おう!」などと言って、自分たちの店へ戻っていった。

彼は気が進まないまま、野菜を並べ始めた。



その日の夜、さっきの雨は止み、例の親子は家へ戻っている途中であった。

何やら小さい灯りがゆらゆらと揺れるのを見つけた。

2人は気になって近くへ行ってみると、2人の近所に住んでいる1人の娘を持つ母であった。

だが様子がおかしい。

何かを探しているようだ。

嫌な予感を感じる。

父が話しかけた。

「こんばんは。どうかしたのですか?」

かわいそうに彼女は涙目である。

「娘が・・・娘が帰ってこないのです・・・」

嫌な予感が本当になった。

「おつかいを頼んでから帰ってこなくて・・・あぁ・・・!」

彼女はとうとう泣き出してしまった。

親子はとりあえず彼女を落ち着かせ、町に住んでいる人に聞いて周り、みんなで町を探し回った。

がしかし、見つからない。

彼は野菜を運ぶ時に、少女を見たのを思い出した。

「父さん、やっぱり僕が見た女の子は飼っている狐を追ったんじゃ無かったんだよ!」

父は言葉が出なかった。

結局その日は少女の失踪について何も得る事がなかった。



それから住民の人々は少女が帰ってくるのを待ち続け、遂に1年が過ぎた。

人々はもう諦めを隠しきれないようだった。

親子は去年と同じように、採れた野菜を運んでいた。

森の側の道を歩いていると、雨が降ってきた。

去年と同じように空は晴れている。

すると彼の頭にもしかしたら少女に会えるかもしれない、という考えが浮かんだ。

少女はこの天気の日に消えた。

ならばこの天気の日に帰ってくるかもしれない、と。

野菜を下ろし、急いで森へ向かった。

少女を見たあたりを探したが、見つからない。

その代わり、金色の狐を見た。

その顔はニヤリと笑っている。

「なぁお前、女の子を知らないか?」

狐の表情は変わらない。

「お前が連れていったんだろ?女の子を返して。」

彼がそう言うと、狐は少女にしたように少し森の中へ歩いてまた彼を見つめた。

「その森の中に女の子がいるんだな?」

さっさと少女を見つけて戻ってこればいい。

この中へ入っていくのを見たのだから、すぐに見つかるはずだ。

彼は森の中に足を踏み入れた。



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