同僚に連れられて来たのは、最近オープンしたというワインバーだった。店の入り口にはオープン記念を意味する胡蝶蘭がいくつか並んでいた。

窓に沿うハイカウンターや中央のソファ席に比べてバーカウンターはやけにこじんまりとし、そこに男が一人ノートパソコンを開きワイングラスを傾けていた。
黒のハイネックニットに細身の黒デニムという恰好からか、そこに居るというよりは佇んでいるという表現のがしっくりするような感じがして、印象に残った。

体育会系の連中が多い俺の周りにはいないタイプだなと横目にしながら案内されたソファ席へ落ち着く。

料理とワインを楽しみ、次のワインはどれにしようか悩んでいると、「おつかれ」とひんやりと心地の良い声が俺達のいる席に届いた。

目を向けると、さっきの男の隣に座ろうとする女性。

白のシャツに黒のハイウエストのスカート。足元は汚れなんて無いだろうばりの綺麗な黒のパンプス。
女性の高すぎるピンヒールはあまり好きではないが、こんなにも違和感無く履きこなす姿を見ると、そんなことも覆される。

襟元の黒いアスコットスカーフが女性の品をさらに格上げしていた。
明らかに私服である女性のそのアスコットスカーフが彼女に妙に似合っていて、男性以上の印象を持った。

それが、俺が初めて彼女を見た日だった。