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「わざわざ文化祭の日に呼び出すとは趣味悪いよねぇ」
からん、からんと。
店のドアを開け、カウンターに座る彼女にそういえばただ笑った。
微かにジャズの音楽が鳴る店内には、自分と、彼女しか存在しない。
扉の前にはcloseの文字が立てかけられている。
平日の昼間に閉まっている飲食店などもったいないとしか言いようがない。
「だって、最近じゃ今日しか帰ってこれなかったの。本当ごめん」
少し、申し訳なさそうな言い方だが、言葉と表情が一致していないとはこのことである。
楽し気な表情をする彼女は本気では申し訳ないとは思っていないらしい。
「それとも何?そんなに文化祭に行きたかった?むしろ、いい口実になったんじゃなかなーなんて思うのですが」
「はぁ…お前と会話するのは葵と話すより大変だわー」
「そんな言い方すると葵がかわいそうでしょ。でも、そうだなー一番かわいそうなのは千景、お前だね」
そして、今度も表情と言葉が一致していない様子で淡々としゃべる。
『かわいそうだねー』とふざけた様子でいうのに、表情だけはその笑みの中に儚さと、申し訳なさが混同している。