「あの、もう逃げようとしたりしないので、いくつか質問しても良いですか?」


ただ目的地も分からず車に乗ってるだけなのも癪なので、私は聞いた。

幸いにも、運転手の男は真っ直ぐ前を向いてて、こっそり窓を開けて道しるべを作っていく私の左手には気がついてないみたい。

彼は一度煙草を灰皿に押し付けてから、質問を許可した。


「……何だ?」

「どうして私なんですか?私は少し前まで施設にいた、ただの孤児ですよ?……もしかして時流様をおびき寄せる囮ですか?」

「んー……いや、俺達は普通に人身売買したい訳じゃないんだ」


じんしんばいばい……人を売り買いする、って事?

赤信号で車が止まる。

……誘拐犯でも、交通ルールは守るんだ。


「聞けば嬢ちゃん、マジで人殺したらしいじゃねえか」

「!」


確かに私は殺人鬼なんて謳われてたけど……


「しかもその相手は、実の母親ときた」