「さくら、あなたお見合いしてみない?」

「へ?」

お母さんが買い物にでも誘うかのような気軽な口調でそう言い出したのは、私が朝食のトーストを頬張っている時だった。

(藪から棒に一体何を言いだすのかと思ったら……お見合い?)

ダイニングに背を向けシンクに溜まった洗いものを片付けながら、お母さんは更に続けた。

「ほら?かすみも結婚が決まったでしょう?さくらもそろそろ……考えてみない?」

ご機嫌をとるような猫撫で声に胸焼けがしそう。

少し早目のエイプリルフールかと思いきや……どうやら、本気でお見合いを勧めているようだ。

“かすみ”というのは3歳年下の妹のことである。

おめでたいことに幼馴染で恋人の双葉くんと婚約の運びとなったのはつい先週のことであった。

(お母さんってば……もう……)

姉より先に妹が先に嫁ぐ例など山ほどあるというのに、私の行く末がよほど心配になったのだろうか。

小学生の頃からかすみと双葉くんの仲睦まじい様子を見せつけられたこちらとしては、妬むなんてことも今更なのに。

私は心配性のお母さんを茶化すようにおどけて言ってみせた。