「やっぱ屋上って寒いなー」





屋上の真ん中で1人つぶやく。



「今頃卒業式始まってんだろうなー」



でも

私が居ても居なくても

誰も気づかないだろう。



なぜなら私は「空気」だから。



真っ黒で艶のない、

一つに束ねられた髪



洒落っ気のない黒いフレームのメガネ



規定の長さのスカート



可愛くも不細工でもない顔立ち



一般的な体型



「はぁぁぁぁ………」



そう、

私は派手子とも地味子とも

言われない、

誰からも注目を浴びない「空気」だ。



それは家庭内でも同じだ。



私は今

父、母、姉の四人家族だ。


でも両親にとっては三人家族だ。



なぜなら私の姉は



女子高生向けファッション雑誌



「LOVEAIR」の専属モデルだからだ。



見栄っ張りで、ずる賢い両親は、



そんな自慢になる肩書きを持つ姉を溺愛し、


何も無い私には見向きもしない。


お陰で、義務教育最後の大イベントで

ある卒業式でさえ、


家族は誰ひとりとして気付かず

私が居なくても

何事も無いように時間が流れていく。





どこへ行っても空気。




今まで何度も変わろうとしてきた。


でも、私は何をやっても凡人。



誰の何の役にも立たない人間。



そう気づいた日から



私はもう全てを諦めていた。




「私って生きてる価値あるのかな…」



気づいたら言葉に出ていた。




勿論、その問に反応する者は誰ひとりとして存在しない。









その時だった。







「無いに決まってんだろ」




「……!?」






突然真後ろから声が聞こえ、


私はぎょっとして振り向いた。




「……だ、だれですか?」


私の真後ろに立っていたのは、



真っ黒なマントで全身を覆われ、


黒いマスクをした髪の毛が腰まである


20代くらいの男だった。





「俺は今日からテメェに配属された

魔法使いだ。

お前は波田美愛だな。」



「…………は?……ていうか
なんで私の名前……」


突然の出来事に頭がごちゃごちゃになる。


(えっと……

私が…今誰もいない屋上で……

私って生きてる価値あるのかなって言

ったら………)



「無いっつってんだろ」


「ぎゃぁぁっ!」



(な、なんでわか……)



「だから、

俺は運悪くテメェに配属された

魔法使いだから

お前の考える事なんてわかるんだよ」



「な、何言ってるんですか!?

け、警察呼びますよ!?」



「どうやって?」



「そっそんなの携帯で………
あれ?」


「その携帯ってこれのこと?」


そう言った男の手には私の携帯がある


「な、なんで!?」


「だからぁ、俺、魔法使いなの。

……っつっても信じないか。

…はぁ……

よォく見とけよ」


すると男の姿はいきなり女の姿になった。


「……な?」


その女の姿をした男は真剣な眼差しで私を見た。


(手品……ではなさそう……。


私の名前も知ってるし…


いきなり現れたし……)



「ほんとに魔法使い……なんですね……」


するとその魔法使いは、

女の姿から男の姿に戻った。


「ああ。言ったろ」


「そ、その魔法使いさんが私に何か」


「さっきから言ってるように、

お前には生きてる価値がない。

今のままだとな。」


「……っ!!」

薄々自覚はしていたけど、

他人から断言されるというのは結構く
る。


「だから俺はお前に生きてる価値を与

えに来た。」


「……は?」


そんな事出来てたら私はこんな所にいない。

何をやっても凡人で誰の何の役にも立

たない私。

この無価値な人間をどう有価値な人間

にするというのだ。


「……どうやって?」


「今、この世界の裏側の魔界ではな、

シンデレラ計画というものが進められ

ている。」


「シンデレラ計画…?」


「そのシンデレラ計画というのは


お前みたいな冴えない少女を


俺らの魔法の力で素敵な素敵な


シンデレラにしてあげようという計画だ。


それで俺がお前に配属されたんだ。


良かったな。


これからお前は


生きてる価値のある人間になれる!


シンデレラガールの誕生だ!」


男はつらつらと台本を読んでいるかのように言った後、

ニヤリと大きく口を歪めた。


「………」


私は数秒間男の顔を見つめ、

ぽかーんとしていたが、

ようやく男の言っていることが理解出来た。



「………つまり……つまりやっと!!

やっと私が選ばれる時が来たのね!!





私は今までにない位の幸福感と興奮で

いっぱいになった。


「あぁ………!!!


嬉しい……!!


とてつもなく嬉しい!!!!!


何も無かった私に、


ようやく転機が訪れたのね!!!


私は……


私は…今日からシンデレラガール!!!」


私は大きくガッツポーズをして

大きく飛び跳ねた。



「……とは言っても


裏ではお前らの親に


多額の金をもらって実行される


黒〜い計画なんだけどな。」



そんな魔法使いの呟きに


私は気づいていなかった……。