翌朝、いつものように支度をして、寝ている直くんを起こさないようにそっと家を出た。

あんな事があっても、仕事は休めない。

休めば収入が減ってしまうから。

「…。」

それにあんな事があったからこそ、仕事を休みたくないという思いもある。

直くんと、同じ空間にいることが恐い。

幸い身体の痛みもだいぶ収まり、おでこの傷は前髪で隠すことができた。

逆上していたとはいえ、直くんは本気じゃなかったのかもしれない。

それでも昨日のことを思い出すと、ガーンと何かで叩かれたような衝撃が全身に走る。

あの時、あたしのおでこから血が流れなかったら、直くんが冷静さを取り戻すこともなく、あたしは今ここに居ないのかもしれない。

考えるだけで、ゾッとする。

被害がケータイひとつで済んで良かった…。


「おはようっ!」

会社に着いていつものメンバーが集まる喫煙所で、あたしは元気にあいさつをした。

できるだけ普段通りにしていないと、身体が震えてしまいそうで…。