相島と付き合ってから初めてのバレンタインデーが訪れようとしている。付き合って3ヶ月も経とうとしているというのに、相変わらず初心な反応しか返せなくて、紗弥は聞きたいことも聞けないでいた。

『どんなチョコが好き?』

 そんなくだらない問いさえ口に出せないでいる。ただただ、相島を睨みつけるだけだ。

「…なんだよ。」
「え?」
「すげー睨んでるけど。何かした、俺?」
「し、してないっ!」

 何もしていない。聞けばいいだけなのである。チョコを渡したいけど、好みがわからないから教えて、と。なのに、ちょっとしたサプライズ心もあってかバレたくない気持ちもあったりなんかして、面倒くさいことこの上もない。要は素直になれないでいるだけなのだ。ちゃんと、頭ではわかっている。
 きっと世の中の可愛い女の子だったら、腕によりをかけた可愛いチョコや、美味しいガトーショコラを作ってみたり、もしかしたらお菓子ではない何かをあげちゃったりなんかするのだろう。しかし、あいにく紗弥にそんなスキルはない。あるとしたら、バリバリ仕事をこなすスキルと、愛想笑いスキルくらいだ。

「…はぁ。」
「は?何のため息だよ。やっぱりお前、何か隠してるだろ。」
「…隠してないです。へこんでるだけ。」
「何にへこんでるんだよ?何もミスってねーだろ?」
「…ないけど。仕事のことじゃないもん。」

 まだ敬語を完全に外せなくて、変な話し方になってしまう。相島が距離を詰めてきた。

「仕事のことじゃなくて、俺のことでもなくて。そんなにへこむことあんのかよ。」
「…なにその言い方。」
「随分と俺は下位だなーと思って。」
「…下位、じゃないもん。」
「じゃあ俺のことじゃねーか。仕事のことじゃないけどへこんでる。嘘が下手だな、お前。」

 紗弥は顔を机に伏せた。確かにここまでの紗弥の返答をまとめるとそうなる。もちろん最初からそうなのだが。相島のことでこれでもかというくらい何度も頭を悩ませている。たまに悔しくなるくらいだ。たまには私のことで困ってみろ、困った顔をしろと思ってしまう。