【水城禅side】



自分でも何故この職業を選んだのか、分からなくなってきた。



大学を卒業し、就活最中にたまたま目にとまったダンテ出版社の面接を受け採用が決まった。



小説はよく読んでいたし、編集者というものにも少なからず興味があったので、これはこれで良かったと思った。




入社当初は、それなりに大変だったしあまりにも想像していたものとはかけ離れすぎていて、何度も辞めようと思った時期もあった。



上司には理不尽に怒られ、印刷所の責任者に罵声を浴びせられ。
そんな日々が続いてついに限界がきてスーツの内ポケットに退職願いを忍ばせた時もあった。


担当している作家の小説が完結したらすぐに出せるように、しきりにポケットを確認していた。



それでも俺がこうしてダンテ出版社に残っているのは、紛れもなく初めて担当した作家、藤田登先生の一言だった。