それから、夏が過ぎ、秋になるまで。

先生は私の赤ペンを使い続けてくれた。


授業が終わった後、いつものように分からない問題を聞きに行った。

友達と話が盛り上がって、先生のところに行くのが遅くなってしまった。

他の生徒は、もうみんな迎えが来ていて、校舎にいるのは私と先生だけだった。



「お!来たな、美央!おせーぞ!どっか分かんないとこあった? 俺に任せろ!」



そう言って、ヒーローのように胸ポケットから赤ペンを取り出す先生。


もう、大分インク減っちゃったね。

そう思いながら、先生に握られる赤ペンを眺めていた。


それに気付いた先生が、言った。



「ん?これ?いいだろぉ!俺の可愛い生徒がくれたんだぜ~!土曜以外、あんま使わないようにしてたんだけど、大分インク減っちゃってさぁ……」



残念そうな顔をする先生。

その後に、いたずらっ子のような笑顔で、へへっと笑った。


私は、嬉しくて嬉しくて。

つい涙がこぼれた。



「ちょっ、美央!? なに泣いてんだよぉ~!」



気付いた時には、私は先生の温かい腕に包まれていた。



優しい優しい、先生。

きっと、私が笑うと思っていたから、どうしていいのか分からなかったんだよね。

困らせちゃってごめんね。


先生は、しょうがないなぁって笑いながら、私の頭を撫でいてくれた。

それがまた最高に嬉しくて、また泣けた。




私、先生の“可愛い生徒”なんだね。