夜は必ずやってくる。


ここに引っ越してきてからというもの、夜は憂鬱だ。
夜中に目を覚ますことが多いからだ。


試しに違う部屋でも寝てみたが、
やはり広くて落ち着かない。

結局、私はこの小さな部屋で寝ていた。





あの夜は、

なかなか寝付けない夜だった。





私は布団の中でもぞもぞ身体を動かしながら、
眠くなるのを待っていた。




あぁ、、ようやく眠れそう。


そう思ったとき、
足元の扉の向こうから足音が聞こえてきた。



トットットットッ…


走っているようだ。
やっと眠れそうなのに、誰?


トットットットッ…


トットットットッ…



真っ直ぐこちらに向かってきているようだが、
なかなか近づいてこない。


……真っ直ぐ?




足元の扉を開けると、正面に物置がある。左に行くとトイレと玄関。右に行くと、台所とリビング。

この部屋に、真っ直ぐには向かってこれない。


そもそも、家には走れるような長い廊下はない。







そういうこと、か。



私は頭まで布団をすっぽり被った。



トットットットッ…


だいぶ足音が近づいてきた。
やはり、こちらへ向かってきている。



通るのは、私の横?それとも上?


…踏まれたら、痛いのかな?





好奇心に負けて、私は布団から少しだけ顔を出した。



トットットットッ…


トットットットッ…



( 止まらず走り抜けますように! )







トットットットッ…

トットットットットットトトト…


( きた!!! )



トトトトトトトトトトト……!!!!








ほんの少しだけ

おでこに風が当たった。





走る姿は見えなかった。

踏まれても痛くなかった。






なぜ走っていたのだろう?

どこに向かっていたのだろう?







…膨らむ好奇心を布団に押し込んで、


私は眠りについた。






( もう来ないでね!! )





と、心の中で呟いて。