「あのさ、ひとつ聞いてもいいか?」


クリスマスデートを来週に控えた今日。少し時間を作れたという春兄のお誘いを受けて、私たちは西洋風の外観がとてもお洒落なレストランで食事をしていた。


「ん?何?」


フォークに巻いたパスタを口に運ぶ。鼻から抜けるようなスパイスの香りが口内に広がった。


「クリスマスプレゼント何が欲しい?」


「え、プレゼント?私この前誕生日に貰ったし、いいよ?」


春兄が事故に遭ったあの日、春兄が私に贈ってくれたプレゼントは人気雑貨店のガラスのオブジェ。女性向けファッション誌でその雑貨店の特集が組まれており、おすすめ商品として紹介されていたものだと知ったのは受け取ったその後のことだった。


今でもそれは私の部屋を華やかにしてくれている。


「あれはあれ、これはこれだよ。付き合って最初のクリスマスなんだ。何かプレゼントさせてよ」


温かい眼差しで私を真っ直ぐ見つめる春兄。しかし、本当に欲しい物は今は無くて…


「私は…春兄と一緒にいれるだけで十分なんだけどな〜…」


何気なく言った一言。聞こえているのか聞こえていないのか、春兄からの反応はない。


恐る恐る顔を上げてみると、少し顔を赤らめた春兄は目を泳がせていた。


「藍…さ、本当に煽るの上手いよな。河西くんと付き合っている時もそういうこと言っていた?」


煽っているつもりなどさらさらない。思ったことをそのまま素直に口にしているだけなのだけれど…


河西くんとは付き合ってからも友達みたいな感覚が完全に抜け切った状態になったことはなく、甘い雰囲気に運ばれることもあまりなかった。


「ううん、河西くんとは手繋いだりデートしたり…き、キス?したことはあるけど、接し方は友達の延長みたいな感じだったよ?」


あれ?この場合って、どこまで報告すれば大丈夫?手を繋いだりとかキスとか、もしかして私、余計なことを…


「あ、違うの春兄!違くて!キスって言ってもその…軽めのやつだから!」


イケないことをしている気分に陥ってしまい、必死に弁解する。


「…それだけ?」


「え?」


「手繋いでキスして…それだけ?」


それだけとはつまり、"その後"のことを聞いてるんだよね。


「う、うん」


否定を示すと春兄は『そっか』と表情が柔らかくなった。これは、私の自爆だ。河西くんとのキスとかを聞かれたわけではないのに、いらないことをペラペラと口にしてしまった。自責の念にかられる。