年が明け、時間の経過はあまりにも早いもので、私は高校を卒業した。あれだけ悩んだ進学も、結局指定校推薦の二次募集に受かり無事に大学生になることができそうだ。


世間は春休み。私は新たにバイトを始めた。


電車に乗って二つ隣の駅のそばにあるドーナツ屋さん。チェーン店ということもあり、名の知れたそのお店は土日に限らず平日の夕方もよく混む。


本当は地元でやりたかったのだけれど、募集をかけているバイトがなかったので泣く泣く電車通いすることにした。




「鵜崎さん!箱詰め入ってくれる?」


「はい!」


イートインで使われた食器を洗っている私に声を掛けたのは大学2年生のバイトの先輩、石田さん。


高校1年のときからここで働いているというベテランの女先輩だ。



レジ打ちをする石田さんの横でお客様が持ってこられたドーナツを丁寧に箱に詰めていく。


この作業もこなれたものだ。たまに箱で手を切ってしまうこともあるけれど、私にしては手際よくやれていると思う。


人もだいぶ引いてきた時間帯。男性二人組が入店してきた。


相変わらず食器を洗っている私と、レジに入る石田さん。つい最近レジ研修をしたので私もやることはあるが、石田さんは積極的にレジを担当する人なので、私にその機会はあまりない。



「鵜崎さん、ホットコーヒーのオーダー入ったから。新しくドリップして温かいものを出して」


「はい!」



コーヒーのパックを開き、ペーパードリップされたステンレスボトルでカップに注げたものをお客様の席までに持って行った。


「お待たせ致しました。ホットコーヒーです。お砂糖やミルクはご利用ですか?」


「あ、大丈夫っす!」


二人組のうちの一人がそう言った。黒髪で短髪の、笑顔が子犬みたいな男性だ。


「では、ごゆっくりどうぞ」


軽く頭を下げ、戻ろうとしたそのときだった。


「あ、すんません!」


「…はい?」


先ほどの男性に呼び止められる。何か追加注文があるのかと再び近づいた。


「もしかして…藍ちゃん?」


「…へ?」


どうして私の名前を?この人、知り合い?いやいや…見覚えない。