学校が退屈。クラスは仲のいい友達とクラスが離れて、毎日お昼を一緒に食べる相手を探している状態。クラス分けの名簿を見た瞬間にクラス替えしたいと思ってしまったほど、最悪なメンツ。 1年の頃、いつめんだった自分を含めた5人のうち、1人と一緒になったが、その子はその子でクセが強く、また、独占欲も強いため、私とは正反対のグループへ行ってしまった。まあ、ここまで言えば、クラスの中の私のポジションは分かるだろう。……はい、そうです。1番下の、地味子グループですよ。……っていうか、グループじゃなくて単体だが。 まあ、こんな生活してたら、毎日同じ日常に飽きる。しかし、こうも探している状態を続くと段々お弁当が味がしなくなってくるわけだ。そんで、どんどんストレスが溜まっていって体重は二か月で3㎏落ちるし… まあ、学校で、居場所がなかったら、家で発散すればいいと誰もが思うだろう…いや、私もそう思う。しかし、父は長期出張、母はパート勤め、姉2人は仕事と学校以外引きこもっているのだ。このニートめっ!さて、どこでこの爆弾級のストレスを発散したらよいものか。あー。なんかむしゃくしゃする。

私はイライラしながら駅前をブラブラしていた。
ところが、いつの間にか来たことのないところまで来てしまった。この歳で迷子になったか…と思い、焦っていると、どこからか油の匂いがする。めちゃくちゃいい匂い。食欲そそる。
お腹が空いていた私はその匂いに吸い込まれるように匂いの元となるらしい建物に来た。どうやらそこはアパートらしい。
中に入ってみると、共同キッチンのようなスペースがあり、そこで若いお兄さんが美味しそうな唐揚げを頬張っていた。私はあの匂いの犯人があの唐揚げだということがわかり、お腹はともかく、心はスッキリしたところで、家に帰ろうと思い動き出そうとしたその時だった。
ー ぐぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅー
あぁぁぁぁぁぁぁ!やってしまったぁぁぁ!あのお兄さんに聞かれてる…最悪だ。
そう思っていた時だった。あのお兄さんが話しかけてきたのだ。
「あの…良かったら、食べますか? 作りすぎてしまって…余ったら勿体無いので」
あ…初対面の人に気を使わせてしまった。でも、ここで断ったらお互いに気不味くなってしまう…自分に言い訳を言い聞かせて、お兄さんのお気遣いに甘えることにした。


「これ、ご飯とお味噌汁と、付け合わせのサラダ。あと、飲み物。お茶ぐらいしかなくて…お水が良かったら言ってね。」

「…ありがとうございます。わざわざ、飲み物も。あと、ご飯、お味噌汁、それにサラダまで頂いてしまって。…いただきます」

私はお兄さんに感謝して、唐揚げを一口食べた。カリッと揚げたてのから揚げが音を立てた。 …やばい。これ。今までで食べた唐揚げの中で一番美味しい。噛んだ瞬間カラッと揚げた鶏肉の旨味と肉汁が口の中いっぱいに溢れ出し、スパイスも効いていてとても美味しかった。そもそも、どうやったらこんなに美味しい唐揚げが作れるんだろ。一度食べただけで、やみつきになってしまう。まさに、「やめられない、とまらない」だ。お肉も凄く柔らかい。まあ、このお肉、そこら辺のスーパーで買った安い肉とは違うだろうし。そんな高いお肉を通りすがりの私なんかが食べてしまっていいのだろうか……。すると、お兄さんが話しかけてきた。

「…美味しい? このお肉、凄い柔らかいでしょう。別に、高いお肉を使ったわけじゃないんだよ。一晩塩麹につけておくだけで、お肉の臭みも取れて、しかも柔らかくなる。今度はこのレモンをかけて食べてみて。雰囲気が変わって、これも美味しいから。ってごめん。喋りすぎちゃった。」

 「いえ、全然大丈夫です。…ってむしろ、話してくれて有難かったです。少し不安で、緊張してたので。」
 私は言われた通りレモンをかけて食べた。さっきまでは何もつけないで食べるのがシンプル イズ ザ ベストだと思っていたが、これも凄く美味しい。何もつけなかった時と同じくらい口の中で肉汁が溢れ、レモンの酸味が効いて、サッパリしている。そのサッパリ感が肉のジューシー感を際立たせているようで、脂っぽいものに多い、あのグッとくる感じがなかった。(わたし的にはレモンをかけたほうがサッパリして好きかも。私もお家でも作れるように頑張ってみようかな。) なんて思った。

「…あの。レシピおしえてくれませんか? あ…凄く美味しかったので。私もこれ、作れるように 頑張ってみようかな…って。 あ…レシピ書くの面倒臭かったら全然大丈夫なんですけど…」

 「全然いいんだけど…折角なら、教えてあげようか? 意外と、コツとかあるし。なんなら、他のメニューとかもどう? 」

「……ありがとうございます。…えー、では、お言葉に甘えて。お願いします。」

「決まりだね。 じゃあ、毎週日曜でいい? 学校とかの事情とかあるでしょ?俺も大学あるし。あ、でも予定とか入ってたりしてても、連絡は大丈夫だから。来たい時に来てくれればいいよ。 あと、今日は俺一人だけだったけど、いつもは3人ぐらいいるからよろしくね。 …あ!安心して!そのうちの1人は女子だから。男ばっかじゃないよ。
それから、名前聞いてもいいかな。あ、俺は 榊 悠。大学2年生です。よろしく。」

「わかりました。 ありがとうございます。えっと、私は、羽柴 陽菜 です。 高2です。 こちらこそよろしくお願いします。 今日の唐揚げは本当に美味しかったです。」

私は、あの美味しさをもっと分かって欲しくて、しつこくないか心配だったが、もう一度言った。

「ありがとう。そう言ってくれると、本当に嬉しいよ。でも、そんな褒められると、調子に乗っちゃいそうで怖い(笑)」

榊さんは耳まで真っ赤にしてそう言った。 なんか可愛いかも。……ダメダメダメ!相手は立派な大学生さんなんだから!
そう、自分に言い聞かせていると、突然、めっちゃくちゃ綺麗な女の人が入ってきた。

「ねえ、悠。 まだ、夕飯残ってるー? 合コン相手が勧めてきたレストランがクッソ不味くて食べれたもんじゃないんだけど! アタシの腹、壊させる気かっつーの!!
どこが『俺の行きつけの店』だよ‼︎ あいつの味覚、くるってんじゃないの? あーーーーー!ムカつく!……ってウマっ‼︎なにこの唐揚げ‼︎ あのお店よりも1万倍美味しいんだけど! さっき行った店が出せるんだったら、悠も店出せるよ! さすが悠!……ってこの可愛い子、誰?」

「お前、喋りすぎ。陽菜ちゃん怖がってんじゃん。 っつーか、その愚痴、お店の人に失礼だろ。でも、唐揚げ、褒めてくれてありがとな。ま、美味いのは俺が作ったんだから当たり前だけど。」

「はいはい。 でも、ヒナちゃんだっけ? 初対面の子がいる前ではその、調子に乗った姿あまり見せないほうがいいわよ。 その非モテ期、延長するから。」

「余計なお世話だっつーの! …あ、こいつ、さっき言ってた3人の内の、ゆういつの女、メグだよ。俺とはゼミが一緒なんだ。 ……あ、メグ。この子、ヒナちゃん。ヒナちゃんとはこれから、一緒にお昼食べる機会が多くなると思うから、可愛がってあげろよ。女って、お前ぐらいしかいねえから。」

「はいはい。言われなくても可愛がりますよー。悠と同じ大学2年の西山めぐみ。めぐでいいよ。よろしくね。ヒナちゃん!!」


「あ。はい。こちらこそよろしくお願いします。えっと、高2の羽柴 陽菜です。」

「へぇー、高2なんだぁ! じゃあ、一番楽しい時だね!高校生活はちゃんと楽しまなきゃだめだよ? 高校生活なんてあっという間だし、もう同じ時間には戻れないんだから……わ」

 なんか、最後めぐさんの表情が一瞬曇ったような気がした。それに、なにか言いかけた……

 「めぐ。そこらへんにしとけ。」

  
 ん?悠さんもなんか変?
   

 「うん。そうだね。この話はもう、やめにしよう。よし!じゃあ、お腹はいっぱいになったところで片付けしますかっ!あ、陽菜ちゃんは帰っていいよ。親御さん心配するでしょ?あとはあたしたちがやっておくから!」
 
 「……そう、ですね。有難うございます。あと、ご馳走様でした。では、また。」
 
 親が心配するって言っても家にいないし。でも、なんとなく居にくそうだからその日、私は家に帰ることにした。