"心理学とは、ある物事に対しての人間の心の推移や行動の起こし方を研究する学問"


松村さんに出会ってから、本屋や図書館で無意識に心理学に関する書物を手にとっている自分がいた。


書いてあることは難しく、まだまだ学生である私には理解できないような内容ばかりであるが、人間の心をここまで客観的に分析する術が述されており、とても興味深かった。



心理学…か。どうして松村さんは大学で心理学を学んでいたのか。聞いた当初は頭になかった疑問が、彼と会わない間に次々へと浮かんでくる。



私は大学では相変わらず一匹狼。声を掛けてくれる人などいない、もちろん私から声を掛ける訳でもない。


特に何もない今まで通りの生活。


変わったことといえば、松村さんに連絡する頻度が減ったということだけ。


別に拒否されて控えている訳ではないが、何となく、あの絶景を目の前にして交わした言葉のお陰で少し気持ちが落ち着いた。


また辛くなったらあそこへ行こう。


そう思っていた。



松村さんはあれからあの場所に足を運ぶ機会はあったのだろうか。松村さんの悩みや迷いとは、一体何なのだろうか。


松村さんに対する私の感情は、"恋"なのか"憧れ"なのか、はたまたそれらとは全く違う"何か"なのか。不思議な感覚に自分でも戸惑っていた。


家族がいない私にとって、年上でぶっきらぼうながらも寄り添ってくれる彼は少なくとも特別な存在だった。