『もーういいかーい。』






公園でかくれんぼ

自分の声だけ虚しく響くだけだった。





『ママが一緒に遊ぶなって…』

『ボール遊び出来ないもん』






いつも,隅っこにいた。



小さい頃から友達は居らず





それは寂しく苦しかった。

お父様は私を厳しく厳しく育てられたせいか
周りの子のように無邪気に遊ぶ事は無かった。  


お父様は私が嫌いだ。

企業の跡継ぎの男を求めていた。
しかし、私は女だった。
だから、私は要らない子だった。


そのためか、冷酷な性格になってしまい


一緒に居ても楽しくないやら
奢ってくれないならさようならとか

誰も寄っては来てくれなかった。





『また、お一人なのですか?』



私に優しく優しく微笑んでは
小さかった私の目線にしゃがむ


『うん……』

目尻を潤ませながら下を向くと



『そうでしたか…』



とだけ呟くと


いつも温かく優しく抱きしめてくれた。

ほのかに優しい角砂糖の匂いがした。

 


『私…__が好き……えへへ』

『私も,愛蓮お嬢様が大好きですよ 』




私の名前も消えてしまえそうな優しい声で
呼んでくれた。





あの専属の執事が大好きだった。










「なのに…思い出せない…」



ため息混じりにそう呟く。

ティーカップに注がれたコーヒーを器用にティースプーンで
ひたすらにかき混ぜていたせいか

コーヒーは湯気すら出なくなっていた。




「たま顔が分からない執事ですか?」


クスクスと小さく笑いながら
私の書類を整理していたメイドが言う



「な,何よ……」


「コーヒーがアイスコーヒーになっていますが…
お淹れ直し致しましょうか?」

「つ,冷たいのが良いの!」



整理された書類は、クリップで止められ
目を通しておくことという付箋が貼られ
私の目の前に置かれた。


外には雪が、積もっているのにも関わらず
冷たいコーヒーを、口に含んだ。



あの頃は私も小さかったためか
あの角砂糖の執事の顔が思い出せなかった。
名前も思い出せない。

彼は短い期間でついていたが
今は専属のメイドが私についている。
もう7年の付き合いだ。



その存在は母親のようだった。

私のお母様は殺された。


病弱で弱々しい背中だったが
私の手を握る力は

頼もしく暖かかった



 
お父様の企業が潰した大手企業が
恨み、お母様を殺した。

小さい私にはあまりに残酷だった。









カチカチと時計の針の音が響く


「愛蓮お嬢様、そろそろ学校ですので
お送り致します。」



その沈黙を破ったのはやはりメイドだった。



私に厚手防寒着類を渡すと

車の手配をし始めた、




「毎回送り迎えは必要ないわよ?」


後少しになったコーヒーを一気に飲んでは
メイドを見つめてばつ悪そうに言った。




「お嬢様………お分かりですか?
お嬢様の父上様は日本企業のトップであり
国にとって絶対的存在です…
父上様の企業によって潰された企業は数知れず…
感謝されている分、恨まれてもいます…
お嬢様はいつ命を狙われたとし・て・も
可笑しく有りませんよ?」


待ってましたと言わんばかりに、
興奮しながらズイズイと、
私に近づき「分・か・り・ま・し・た?」と
ニコニコしながら私を威圧した。




「分かったわよ分かった分かった… 」



今までも何度も命を狙われた経験があり
メイドも皆、それ、恐れている




「ならば良しです」


満足気に、メイドは軽やかなステップで
私の荷物を持ち、車に向かっていった。


私も後に続き追いかけた。







学校の前まで来ると、



「歩いてくれば良いのに…自慢かよ」

「噂のお嬢様じゃん……」



私はこれが嫌だった。

周りからの偏見は辛いものだった。




メイドは車から降りて私の鞄を持ち
心配そうに私を見るが、

私はその鞄をメイドから受け取り




「大丈夫よ」

 


満面の笑みで言った。

長い髪は風に揺れ,頬が冷たくなった。




そうすると、私はメイドに背を向けたが、


お礼を言っていない事に気づき、

踵を返すと







もう、メイドは同じ目線に居なかった。






生暖かいものが


冷たくなった頬を伝う。







積もりに積もった白い雪は,




真っ赤に咲き乱れていた。







「へ………?」



足元に居るメイドを見るが怖かった。



周りの叫び声なんか

頭に響いてこなかった。


  


「大企業のお嬢様の警備も

大したことねぇな、ァ?」





目の前の長身の男は

メイドの死体を見て,そう毒を吐く。



赤黒い血液がついた鋭いナイフを

丁寧に布で,拭き上げると




私の鼻が触れそうなくらい

顔を近づけ、




「お嬢様も殺してあげましょうか?」


と不敵に微笑んだ。

 


「ッ…………ぁ……」


足が震え、言葉も出ない。




まるでこの世に二人しか居ないようだった。
 




「チッ…警察か」


そう、当たりを見渡し,男は呟いた。





男はフードを被ると,私の身体を担ぎ

車に投げ入れた。




「ッた………」


頭を強く打ちくらくらした。



 
男も、車に乗り込み


「車、飛ばすから、死ぬなよ」





とハンドルを握り、

勢い良くアクセルを踏みしめた。