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「おねーちゃん早く早く〜っ!」



「もう、わかったから引っ張らないでかの。

そんなに急がなくたって花火は逃げないわよ」



鮮やかな桜色に身を包んだかのが、わたしの手を引っ張る。

──今日は、約束していた花火大会の日だ。もちろんわたしは夕李とも約束しているのだけれど、かのに言ったら彼女は案外すんなりと受け入れてくれた。



はしゃぐ彼女としっかり手をつないで夕李との待ち合わせ場所に向かえば、息を切らしているわたしに、彼がくすりと笑う。

それから「走ってきたのか」と楽しそうに、かのの頭を撫でてあげていた。



「だって楽しみだったんだもん!」



「かのは昔から花火好きだもんな」



優しくそう言われて「えへへ」と笑うかの。

言わずもがなかわいい。わたしの妹は天使だと思う。




「ほら、行くぞ」



「はぁーい」



花火大会が行われる河川敷までは、普段ならここから電車で行くのだけれど。

人気の花火大会なこともあって、臨時のバスが出る。地元からもたくさん行くから、普段の静けさが嘘みたいに、臨時バス乗り場はガヤガヤして騒がしい。



「毎年のことだけど……凄い人ね」



「だな。

……つーか言いそびれたけど、お前もかのも浴衣似合ってんじゃん」



普段なら1時間に2本くればマシなわたしの地元に、5分に1本バスが来るんだからすごい。

無事にバスに乗って、空いているふた席にわたしとかのを座らせてくれた夕李が、わたしたちを見てそう言う。



かのの浴衣は、全体的に桜色で模様も桜。

わたしの浴衣は紺の布地に、白い撫子だ。