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『なに、このアザ』



どこからか声が聞こえた。

わずかに反響して消えていく。

遠いのか近いのか、いまいちわからなかった。



目の前はやけに明るいのに、もやがかかっていて、景色の輪郭はぜんぶ曖昧だ。



『ケンカの傷じゃないよね』


相手の姿は見えないのに、思い出した。



あのとき初めて、父親以外の人間に、生身の体に触れられた。


さっきまでケンカをしていたとは思えない相手の優しい手つきに、俺は戸惑ったんだった。



殴る蹴る以外に、こんな触れ方もあるんだと。知っていたのに、体で感じるのは初めてで。



『制服で隠れる部分にアザが集中してる。ケンカじゃありえない。……誰に、やられたの』



……当時の声、そのままだ。

俺は、夢を見てるんだ。



夢だけど、嘘じゃない。



これは記憶


俺の大切な──────思い出。