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花の模様が彫られた木製のドアに、“Open”と書かれた小さな板が下げられている。
お店を正面から見るのは初めてだった。
本多くんがドアを手前に引くと、カランと耳触りのいい音が鳴り中にいた人たちがこちらを振り返る。
カウンターには4人の男性が座っていた。
「うわ七瀬か。久々だなあ、一瞬誰かと思ったよ」
みんな顔見知りなのか、親しげな笑顔を向けられた。
「高校生がこんな時間に出歩くのは感心しないなあ」
「そうだぞー。お巡りさんに突き出してやる」
そう言いつつも咎めている風じゃなく、むしろその逆で。
「おら、飲めよ」と、飲みかけのグラスを本多くんの口元に押し付ける。
「急いでるのですみません、また今度」
にこりと笑いさりげなくその場をかわすと、本多くんはカウンターの奥にいた市川さんの元へ歩み寄っていった。
「マスター、お願いがあるんです。おれちょっと追われてて……。相沢さんのこと匿ってくれませんか?」
あたしの背中を押して、前に出す。
「この場所は中島しか知らない。だけど中島は、ここを教えることだけはしない、きっと。……だって、」
まだ言葉を続けようとしていた本多くんの袖を引っ張り、思わず遮ってしまった。
「本多くんは、知ってたの?」
「なにを」
「中島くん、が……」
先は言わない。言うつもりもなかった。
本多くんはあたしが何を言いたいのか、たぶんもう分かっているから。
「だってそれ。琉生のジャケットでしょ」