「ねぇ、湊、夏休みは川に行かない?うん、それがいいと思うの」


「なに、突然。早織、川に何しに行くの?」



夏休みが間近に迫った7月中旬。
私、真木 湊(まき みなと)は、親友の折田 早織(おりた さおり)と、放課後の教室で、高校生活初めての夏休みの予定に花を咲かせていた。



「何しにって……バーベキューとか〜、泳いだりとか〜。考えただけで、楽しそうでしょ!」


早織の気持ちは、すでに夏休みに旅立ってる。


「えー、私は家で読書がいい」


そんな早織の期待を裏切るようで悪いが、本心を口にした。日に当たると茶色く見える、色素の薄い早織の長い髪と瞳。

それが夕日に照らされると、輝いて見えて、私は目を細めながらそう言った。



「出たよ、湊の引きこもり。もー、花の高校生なんだから、もっとアクティブにいこうよーっ」


「アクティブねぇ……」



私の親友は、根暗で引きこもりの私とは正反対。
底なしの明るさで、私を無理やり外へと連れ出す。
でも、そんな早織が、私にとっては光のようで、いつも私を照らしてくれていた。


「これから先も、こうして一緒に思い出を作ろうね!」


「なに、突然」


「いいじゃん、湊ともっと思い出作りたいの!」



この親友とは、高校一年からの付き合い。

長い付き合いとは言えないけれど、私は、もう何十年も付き合いがあるかのような、安定の居心地の良さを感じていた。



「ねぇ、湊、私たちずっと一緒だよ」


この、真っ直ぐな笑顔が、想いを隠さず伝えてくれる所が、私は好き。
早織といると、私まで明るくなれる気がするのだ。



「早織とは、何があっても離れない気がするんだよね」


「あたりまえ、私は湊の傍にいるよ」



そう、何があっても私たちの絆は消えない。
それを信じているから、私は迷わずに『ずっと』なんて不確かな言葉を、平然と使えた。


放課後の教室で、私達は顔を見合わせて微笑む。


そう、こんな風に……これから起こることなんて何にも知らないで、無邪気に笑えたんだ。