chapter5 星瞑る夜の夢想曲(Traumerei)


「お初にお目にかかります。森から代表として参りました、ヤーノ=ルクリオと申します。森人の長、アルル=シャトヤンシーよりこちらの書簡を預かって参りました」

玉座の前で跪くのは幼馴染みの森人の青年。

王族であるレイオウル、そして渦中の存在であるという事でフェリチタも、他の王族の者達と共に玉座の後ろに控えている。その位置から青年の姿は良く見えた。

「ヤーノ……」

小さく口の中で転がしただけだったが、きっと隣にいるレイオウルには聞こえたのだろう。彼の指先がそっと手の甲に触れて離れた。

書簡を渡したヤーノは、しかし国王がそれを開き読む前に内容を諳んじた。

「──速やかに『奇跡の聖女』を返還されよ。さもなくば森人は、聖女の奪還という名分を以て人間に総攻撃を仕掛ける。
期限は本日から2週間。目付役としてヤーノ=ルクリオをそちらに置いていただく。また、それを拒否された場合についても交渉は破談したものとし、武力行使致す」

ヤーノが淡々と放った言葉に一瞬呆気に取られたように口をぽかんと開けた国王は動揺に震える手で手間取りながら書簡を広げた。その後すぐにぶるぶると震え出す。

「なっ……なんという……こんなものが『交渉』だと!貴様らはそう宣うのか!」

「……長の意は森人の総意でございます」

僅かな沈黙の後、頭を垂れたままでそう言った森人の青年に人間の王はぎりりと歯噛みした。

「こちらには何の利も無いではないか!あの時負けたのはそちらであろうに、対価無く捕虜を解放せよとは随分と舐められたものだな……!」