chapter2 聖女の困惑と王子の思惑


「ドルステお前、あれ、ホントどうなってんだよ……」

城の庭の端にある厩舎で馬を労っていると仲間たちに横から小突かれてドルステは肩を竦めた。

「お前らなぁ、城に帰ってくるまでも散々きいてきただろ?だから捕虜だって」

「いやいや捕虜にしちゃ、なあ……?」

「レイオウル殿下、いや三頭犬の復讐の団長様と言えば、1に鍛練2に鍛練、34とんで5に鍛練……何なら6も鍛練……ってお方だぞ?今年で18歳になられるのに、顔が好きで寄ってくる方は置いといて、貴族のお嬢様も堅物だと怖がって縁談すらなかなか来ない。
ご自分が今なさっている事が世の中で『お姫様抱っこ』と呼ばれているのをご存知かすら怪しい」

「なあ、殿下がお嬢様方に何て呼ばれてるか知ってるか?」

「シッ!お前それはマズい」

「それなのに……あれ……」

言いたい放題言っている割に声が震えている。まあ、その気持ちはわからなくもないが。

「あれ、ねぇ」

仲間達が手を止めてぼーっと眺めている方に彼も顔を向ける。

話し込んでいたドルステたちはとっくの前に置いていき、一人さっさと厩舎から去っていったレイオウルが、城の無駄に広い白い大理石が敷かれた庭の真ん中をこつこつと単調なリズムを刻みながら歩いている。

遠くからでも目立つ金の髪を軽く揺らしながらその手に抱いているのは一人の少女。レイオウルの腕から零れた長い髪が銀糸のように垂れ下がっている。

それが歩調に合わせてゆったりと揺れるのを目を細めて眺めながら、1人が僅かばかり困惑を込めた口調で言った。

「殿下がこんなに入れ込まれるなんて……そんなに美人なのか?“森人”なのに?」

「あいつら女でも結構ゴツいぜ。筋肉隆々」

想像したのか、うへぇ、と漏らした仲間達。殿下鍛えすぎなんじゃね……?と若干引き気味の声。

皆が呆けたように見つめているのを余所に、レイオウルは城の中に消えていった。

「ドルステ、お前は見たんじゃねぇの?」

誰がその言葉を発したのか、一斉にこちらに向いた矛先に、ドルステはわざとらしく再び首を竦めた。

「───そんな気になるなら見に行けば?」