「センセ? 何ボーッとしてはるん? 考え事?」



「ん、ちょっといろいろ思い出してただけ。問題、解けた?」



「一応できた。今日バレンタインやから、センセ、女の子からいっぱい声かけられたんと違う? 思い出してたって、そのこと?」



「まあね。あ、ここ、最後の詰めが甘いよ。もう1段階、因数分解できる。考え方は合ってるんだから、凡ミスで減点されるのはもったいない」



「めんどいわー。数学、嫌いや。センセは文系やのに、何で数学もできるん? 意味わからへん」



高校2年生の花乃ちゃんは、国語が壊滅的に苦手で数学の成績もよくない。


文系でも理系でもないという、進路選択にいちばん困るタイプだ。



あの入院中に花乃ちゃんに勉強を教えるようになって、途中から正式にアルバイトとしてお金をもらうことが決まった。


以来、国語と数学を中心に、週に2回ほど教えている。



前よりはずいぶん成績が上がったらしいけど、高校の勉強ってそんなに手こずるものだっけ? というのが正直なところ。


正直に口に出したら容赦なくどやされるから、言わぬが花だ。