「約束?」


蓮様が訝しむように、茜さんの放った単語を繰り返す。


『僕、本気で君と組みたいと思ってるよ。迎えに行くからね。いいの?』


茜さんは電話をくれたあの時から今まで、ずっと本気だった。それはもちろん分かっていたし、私も誠実に応えなければいけないと思っていた。


『命令、じゃない。パートナーは僕にして。……それが嫌だったら、来なくていいから』


でも、それより何より。蓮様の寂しそうな顔が忘れられなくて、結局私はどうあがいても彼の傍を離れられないのだと思う。ううん――離れたくないのだと、思う。

不相応だけれど、それでも彼の近くにいたい。身勝手で我儘な気持ち。
傲慢な想いをそのままさらけ出すのは怖いから、「執事」という立場を利用して彼の元へ走った。自分がこんなにずるい人間だなんて、知りたくはなかったけれど。

卑怯な手を使って彼の隣にいるのに、感じたのは罪悪感よりも、いま繋がれている手の温もりへの愛おしさだった。


「ご主人様に逐一報告、じゃなかったっけ。このこと(・・・・)は言ってないんだ?」


茜さんが悪戯っ子のような口調で私に問いかける。
自分の中でなかなか決めきれないことであったから、蓮様へ話すタイミングも流れてしまっていた。気まずさを抱えながら、恐る恐る口を開く。


「あの、茜さん。私……」