見慣れない空間を恐る恐る進んでいく。アイボリーにグレー、白っぽい壁が続く廊下を歩いていると、前方から声が掛かった。


「あ、来た。こっちこっち」


こちらに気が付いた茜さんが、手招きしつつ呼び寄せる。今日も今日とてスタイル抜群、眉目秀麗だ。
会釈をして目の前で立ち止まる。形のいい彼の唇が弧を描いた。


「受けてくれたら嬉しいとは思ってたけど、まさか本当に連絡くれるとはね」


処は茜さんに指定された撮影スタジオ。初めて目にする光景に、先程から落ち着かない。

数日前、私は彼にコンタクトを取った。ひとまずモデルの件だけ、承諾の返事をするために。


「あの、そのことなんですけど……」


言いつつ私は後ろにいた人物を振り返る。ようやくその存在に目を向けた茜さんが、首を傾げた。


「彼は?」

「実は……私ではなくて、彼にモデルをやってもらうというのはどうかな、と思いまして……」


数歩前に出てきた()は、茜さんに片手を差し出し口を開いた。


「五宮蓮です」

「五宮……?」


思案顔になった茜さんが、「ああ」と合点がいったように蓮様の手を取る。


「驚いた。五宮家のご子息と会えるなんてね」