「葵くん」

王子は女性と少女が去っても、自分の手をじっと見つめて座りこんでいた。

わたしや紅蓮殿、祥、瑞樹さまに数回呼ばれて、やっと松葉杖を手に立ち上がった。

「これも龍神の力なのか……」

王子の問いかけを瑞樹さまが「だろうね」と肯定したけれど、王子は少しも嬉しそうではなかった。

朔の日に、王子の身に宿った力は他にもあるのかどうかが気に掛かった。

わたしたちは出会った人に声掛け、街や村の様子を訊ねながら、央琳の宿を目指した。

市街地を出ると、店も家も急に少なくなり、更に歩いているうち、畑や田園風景に変わった。

西の都、江藍で見た風景が甦った。

干上がってひび割れた土地、ただ目の前に広がっていた何もない光景、砂埃の舞っていたあの街も、かつては、こんな風に潤っていたのだと思った。