公園の中に踏み入れると、わたしの視界を鮮やかな桜が染め上げた。

「もうそんな時期か」

 分かっていたのに、改めて気づかされる。あの町を去って今年で十回目の春が訪れようとしていた。わたしはあれから大学に通い、以前通っていた中学校の近くにある企業に就職していた。

 決して遠い距離ではないが、あの町には一度も足を踏み入れていない。

 真一やおばあちゃんとは何度も顔を合わせたが、それもあの町とは違う場所でだ。

 十年という時間はおばあちゃんの年を感じさせるには十分だった。何度かわたしと同じ町に住めないかと訊ねたが、彼女はそれを拒んでいた。やはり長年住み慣れた町が良いのだろうが、一人で生活させるには心配な歳でもあった。

 今は真一がわたしと同じ町に住んでいるのにも関わらず、マメに顔を出してくれているが、彼が結婚をしたらそういうわけにもいかないだろう。

 今はまだそうした予定はなさそうだが、人に頼りっぱなしではよくない。

 わたしの目の前を手をつないだ男女が楽しそうな会話をしながら通り過ぎていった。

 大学生くらいだろうか。そんなカップルを見るたびに、わたしの心の奥が熱を帯び、その熱が上半身に広がっていく。